穂積作品の書評/レビュー

さよならソルシエ (2)

よく知るゴッホ像
評価:☆☆☆☆☆
 テオドルス・ファン・ゴッホの目論見は成功し、パリ市民はありのままの姿を描く絵画を芸術として認め始めた。しかし、美術アカデミーの重鎮は激怒し、テオドルスを失脚させるためにフィンセント・ファン・ゴッホに目を向ける。
 拉致され教会に監禁されたフィンセント・ファン・ゴッホを助けるべく、単身敵地に赴いたテオドルスは、拳銃を突きつけられる兄を見て意外な言葉を吐き、自らも拳銃を取り出すのだった。

 そして世間が知るゴッホが生み出される。シリーズ最終巻。

さよならソルシエ (1)

意外なゴッホ像
評価:☆☆☆☆★
 パリ随一の画商であるグーピル商会の支店長テオドルス・ファン・ゴッホは、美術アカデミーが取り仕切る閉鎖的な画壇に嫌気がさしていた。何故なら、彼は美術アカデミーが認めない作品の中に、千年先まで残るような芸術があることを知っていたからだ。その才気の持ち主の名は、フィンセント・ファン・ゴッホ、テオドルスの兄である。
 田舎からパリにやってきた兄はいつもにこやかで他人に対する嫉妬や怒りなどの負の感情を持たず、気ままに自分の描きたい絵を自由に描くだけの日々を過ごしていた。テオドルスは、アンリ・ド・トゥールーズロートレックら、画壇に反発する若手画家たちを組織し、パリ市民を巻き込んで新たな美術旋風を巻き起こそうとする。しかしそれは、古い画壇に属する権威たちの怒りを買う行為だった。

式の前日

ないからこそあるもの
評価:☆☆☆☆★
 女性の金髪率が異様に高い気がする。何かコンプレックスでもあるのだろうか?全般的に、存在しない人物が物語に影響を強く残している構成となっている。

「式の前日」
 社会人三年目の俊明と、八歳年上の姉である絵里との日常を切り取った短編。タイトルから分かるように、姉は明日、嫁ぐ。ただの日常に込められる深い思いの理由とは?

「あずさ2号で再会」
 アパートの一室で父のやってくるのを待っている7歳の少女あずさ。暑い夏の日、あずさが食べたいと思っているアイスを携えて、父はやってくる。父と娘が頻繁に会えない理由とは?

「モノクロ兄弟」
 高校時代の友人の由紀子の葬儀で久しぶりに会った双子の兄弟の禄郎と志郎。彼らはとある居酒屋で、既に過ぎ去って取り戻せない日の選択を後悔する。そして…。

「夢見るかかし」
 親に捨てられカンザスの親戚の家に引き取られたジャックの生き甲斐は、妹のベティを守ることだった。しかし、長じるに従い兄の束縛から離れ、妹は独り立ちをしていく。それに耐えきれなくなったジャックは、ニューヨークに逃げ出した。そんな彼の許に、妹の結婚を知らせる手紙が届く。一体誰が送ったのか?

「10月の箱庭」
 一本きりしか小説を出版したことのない作家である篠田和徳の許に、見覚えのない親戚の娘が訪ねてくる。居候しだしたその娘は、ちっとも小説を書こうとしない篠田にことあるごとに干渉してくるのだが…。

「それから」
 「式の前日」の後日談。

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