ヤマザキマリ作品の書評/レビュー

テルマエ・ロマエ VI

最後の瞬間
評価:☆☆☆☆★
 古代ローマの浴場技師のルシウス・モデストゥスは、ハドリアヌス最後の浴場を建設するため、現代の研究者の女性、小達さつきの前から姿を消してしまった。愛しの人を失ってしまったさつきは、ルシウスが残した言葉をもとに、バイアエの研究を進めることでルシウスの手掛かりを探そうとする。
 一方、ローマへと戻ったルシウスは、寝食を忘れて浴場建設に取り組んでいた。だが、ハドリアヌスの病状は悪化し、浴場完成まで持つか分からない。そんなとき、ハドリアヌスの養子であるアントニヌスは、腕の立つマッサージ師のうわさを聞く。その正体とは?

 ルシウスに対するさつきの思いは時空を超える。果たして二人の思いはつながるのか?一応、最終巻です。

ジャコモ・フォスカリ (1)

追憶と羨望、そして混乱
評価:☆☆☆☆☆
 ヴェネチアの名家に生まれたジャコモ・フォスカリは、教養ある父の薫陶を受け、多神教であった古代ローマに深い興味を持つ少年として育ち、果ては大学教授となり、同様に多神教だった日本に赴任する人物へと成長した。そんな彼の中核には、自宅に置かれていた古代ローマ時代のヘルメスの像と、少年時代にヴェネチアで出会った貧乏な少年アンドレア・ガネッティの言動が居座っている。
 時は1960年代。不穏な空気を孕み始める大学にあって、下町に下宿しながら才能ある文化人たちと交流していたジャコモ・フォスカリのお気に入りは、名曲喫茶パルマだった。そこには、かつての少年アンドレアの面影を宿す美少年、古賀秀助が働いていた。

 戦前戦中のヴェネチアと60年代の日本、美少年ウェイターと彼の近くに居る美少女が醸し出す退廃的な雰囲気、大学に溢れる熱狂と下町の喧噪、そして日本の文化人たちの持つ独特な価値観が入り乱れ、ジャコモ・フォスカリが感じた世界を描いている。
 この作品のキーワードを抜き出すなら、追憶と羨望、そして混乱と言うところだろうか。ジャコモ・フォスカリという人物自体に華があるわけではないが、彼の人生には様々な人が交わってきて、そして去って行く。そういう、個人の視点から見た世界の記憶なのだと思う。

テルマエ・ロマエ (5)

初めての気持ち
評価:☆☆☆☆☆
 ハドリアヌス帝治世末の古代ローマから現代の伊東温泉にタイムスリップしてきた浴場技師のルシウスは、彼が平たい顔族と呼んでいる日本人才女の小達さつきと出会い、初めて平たい顔族とラテン語での意思疎通に成功する。
 大学講師をしながら伊藤で芸者もしつつ、古代ローマに恋しすぎて全く男っ気のないさつきは、ルシウスが鐙もなしで裸馬に乗る姿を見て、彼が本当に古代ローマ人なのではないかと気づき、ルシウスの一挙一動を目でおう様になってしまう。

 そんな伊東温泉に大事件が発生!老舗ホテルのバカ息子がヤクザの美人局にあい、自分のホテルを召し上げられただけでなく、伊東温泉の地上げの片棒を担ぐ様になってしまったのだ。古き良き温泉街を愛するルシウスは、畢竟、彼らと衝突することになり、さつきの祖父が若い自分にそのヤクザの組を潰していた経緯もあって、さつきの身が狙われることになってしまうのだった。

 伊藤での騒動の最中、古代ローマに戻ってハドリアヌス帝の病状が末期であることをマルクスに教えられたり、ヤクザに拉致されたさつきを救うために伊藤の温泉街で大騒動を起こしたり、散々、盛り上げてくれたルシウスは、またしても良いところで古代ローマに旅立っていく。
 またもや盛大な引きだな。

テルマエ・ロマエ (4)

現代文化に触れるルシウス
評価:☆☆☆☆☆
 ハドリアヌスの養子にして次期皇帝のケイオニウス・コモンドゥスが、任地のパンノニアで体調を悪化させ、死んでしまった。後継者を失ったハドリアヌスは怒りに震える。その勘気を風呂で諌めたルシウスは、逆にマルクスが皇帝の座に着くまで、彼を見守る役割を託される。
 ハドリアヌスからの強い信頼に感動し、期待にこたえる覚悟を新たにするルシウスは、またもや日本の温泉地へとやって来る。今度は海沿いの温泉地だ。そしてそこで初めて、ラテン語を自在に操る女性・小達さつきと出会い、現代世界の文化に触れることになる。

 初めての長編。現代日本での様々な騒動はもちろん楽しいのだが、ルシウスとケイオニウスのやり取りも面白い。そして才色兼備の女性として描かれるさつきは、果たして真実に気づくのか?

テルマエ・ロマエ (3)

人間が堕落する場所、それが温泉街
評価:☆☆☆☆☆
 ハドリアヌスとその後継者であるアエリウスに反感をもつ元老院議員たちが、彼らの人気の源である風呂、そしてその設計者であるルシウスを排除するため、謀略をめぐらせる。皇帝の命と偽って、ルシウスを山賊たちの縄張りに向かわせたのだ。
 しかしルシウスは、その山賊たちを巻き込み、温泉街を作ろうとする。そんなとき、また風呂に落ちたルシウスは、平たい顔族の温泉街にやってくる。そこで見る数々のものに、刺激を受けたルシウスが作り上げる温泉街とは…。

 他に、属州総督となったアエリウスにお風呂を作ったり、成金集団からのハデハデ設計の依頼にスマートに応えたり、ルシウスの活躍が描かれる。
 そして、物語はハドリアヌス後継のエピソードへと進んで行きそう。

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テルマエ・ロマエ (2)

頑張ってもなかなか報われないルシウス
評価:☆☆☆☆★
 EDになって妻に逃げられたルシウスが妻を連れ戻すために治療に臨んだり、ハドリアヌス帝が養子を迎えるにあたってお披露目に相応しいお風呂を設計したり、古い私営浴場を再生させるためのアイデアを実現したりする。
 一番初めのお話については、ポンペイ遺跡を見に行った際に、どこかの団体客についていた英語のガイドさんが、おそらくはプリアポス神の壁画について軽妙に紹介していたので、欧米人にも興味のあるスポットだったのだろうとは思う。
 そしてハドリアヌス帝の治世は晩年へ。気難しがりやとなったハドリアヌスと、その後継者たちの物語は、ルシウスの運命まで左右してしまうのか?

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テルマエ・ロマエ (1)

古代ローマ人と日本人の共通点?
評価:☆☆☆☆★
 紀元二世紀のローマの風呂設計技師が現代にやってきて日本の風呂を学んで帰り、それを模倣して栄達していくというのをシリアスギャグ風に描いている。

 個人的にはハドリアヌス帝の治世なのがツボ。ティベリウス帝と同様に、偉大な先帝の後を継ぐという重圧に負けず内政を充実させ、それにも拘らずローマ元老院に嫌われて死後に記録抹殺刑まで受けそうになったのが悲惨だと思う。時代の空気感に逆らう指導者の末路みたいなものを感じてしまう。

 それはともかく、風呂というキーワードだけでこれだけ話を膨らませることが出来るのは作者がすごいのと共に、どれだけ日本人の根底に風呂が根付いているかを示すものである気がする。

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