柳原望作品の書評/レビュー

高杉さん家のおべんとう (10)

秘めたる思い
評価:☆☆☆☆★
 フランス出立を間近に控える温巳と、彼に対する思いを抱える久留里の決断とは?
 シリーズ最終巻。

高杉さん家のおべんとう (9)

変わり目
評価:☆☆☆☆☆
 小坂りいなの知人関係から高杉久留里の父親らしき人物を知った高杉温巳は、その人物に会いに行くことにする。結果、あっさりと父親であることが判明したのだが、それを久留里に伝えるべきかどうかで悩む。
 一方、久留里は文芸部の部長となり、さらには進路選択の時を迎え、いっぱいいっぱいになっていた。

 次巻が最終巻。

高杉さん家のおべんとう (8)

家族の形成
評価:☆☆☆☆☆
 家族という意識が強くなり、将来のために真実を知っておきたいと思うようになった高杉温巳は、高杉美哉の過去を探り、高杉久留里の父親を探そうとする。
 香山なつ希のパパにして香山玲子の夫が登場したり、部活でひと騒動起ったりしながら、家族としての繋がりを深めていく二人。そしてついに、意外なところから父親の情報が転がり込む。

高杉さん家のおべんとう (7)

新しい世界と旧い世界をつなぐ
評価:☆☆☆☆☆
 小坂りいなに失恋したショックを引きずる高杉温巳に、高杉久留里は心を痛める。何か彼に良いことを。彼女が願ったのが届いたのか、高杉温巳を特任准教授として引き抜きたいという誘いがやってくる。
 一方、小坂りいなの行動に感銘を受けた高杉久留里は、自立した女になるべく、新しい世界へ積極的に飛び込もうという意思を育みつつあった。

 そして半年が過ぎ、小坂りいながドイツから帰国して、彼らのグループにちょっとした騒ぎを巻き起こす。新しい世界と旧い世界をつなぐエピソードが詰め込まれた一冊です。

高杉さん家のおべんとう (6)

思い描けなかった未来
評価:☆☆☆☆☆
 高校に入学した高杉久留里は、最初の一週間で順調にぼっちになった。携帯電話も持っていないし、スーパーの特売のためにことごとく誘いを断っていたから当然だろう。高杉温巳はそれに気づくものの、中学時代もそうだったから大丈夫と静観の姿勢を見せていたところ、香山玲子に脅かされてしまう。
 そんな調子で講師となった小坂りいなとも疎遠になりがちだったのだが、マーマレードを縁に再アプローチを開始することになる。一方、同じマーマレードで文芸部の先輩の山田旭と知り合った久留里は、流されるままに文芸部にマネージャーとして入部、部長の丸宮史や丸宮蕗に走り回らされることになる。

 おかげでスーパーの特売には間に合わず、夕飯の準備も遅れ気味。温巳の方もりいなにどんどん引き離されていく現状を変えるべく、あらゆる仕事を引き受けた結果、お弁当も手抜きになってしまうのだった。

 1回2回のミスは許容されるけれど、さすがにスリーアウトチェンジと言うところだろうか。何事も包み隠さず言うことばかりが正しいわけじゃないというか。知りたくなかったことだってあるわけで、そこまで気が回らなかったこと自体、縁がなかったということなのかもしれないな。
 ということはこれは、どういう方向に行っちゃうんだろう?

理不尽のみかた (1)

開き直りも一つの強さ
評価:☆☆☆☆★
 検察審査会事務局の事務官である佐倉縁は、大学同期の棚橋貢と結婚して同じ職場に就職し、三年前に他に好きな人が出来たからと言って離婚を切り出された。離婚した元夫は再婚し、最高裁判所事務官に栄転、佐倉縁は今も理不尽な思いを抱えている。
 そんな彼女が相対するのは、事件を不起訴にされて理不尽さを感じる人々だ。だが彼らが遭遇した事件というのは、多くが子供のケンカのようなもの。そんな場合、時間を拘束される審査会委員と費やされる税金は、理不尽としか言いようがない。

 だが彼女の生活は、アパートの隣室に英国からの留学生アンドリュー・ウォード、通称安藤竜が引っ越してきたことで強制的に変わっていく。日本のサブカルオタクである安藤は、佐倉を振り回して日本文化にのめり込む。その行動は理不尽であるはずなのに、佐倉はどこかホッとするものも感じてしまう。
 そして安藤と仲良くなったイケメン弁護士で隠れオタクの谷崎健司も加わって、佐倉はこれまで流してきたものと正面から向かいあう機会を持つことになるのだった。

 理想を抱いて裁判所に就職したものの、職分の限界で早々に理想と決別せざるを得ず、さらには予想もしなかった離婚で理不尽を受け流さなければ自分が傷つくところに追い込まれてしまった女性が、何も諦めずに自分のやりたいことを周囲の目も気にせず邁進するオタク留学生と出会うことで変わっていく。
 周囲はそれまでと何も変わらないはずなのに、自分の見方が変わったことで周囲の反応も変わってくるという、人と人とのコミュニケーションに主体が置かれているのだが、それを導き出すきっかけとなるのがコミュニケーション不全気味のオタクたちというのが面白い。

高杉さん家のおべんとう (5)

羽ばたく瞬間
評価:☆☆☆☆☆
 高杉久留里も中学三年生。高校受験のシーズンとなりました。ところが高杉温巳は自分のことで手一杯で、受験生に対する配慮など思いもよらない様子。香山なつ希のツッコミで、にわか受験生の親になろうとするのだが、どうにもこうにも空回り気味。一方、丸宮光も自分の進路を巡り、初めての自己主張を繰り出す。
 そして温巳自身にも新たに講師としてのチャンスが巡ってきました。しかし、その採用枠は香山玲子の勤務先で、かつ、小坂りいなとの一騎打ち。その結末やいかに?

 高杉家がお世話になった御手洗百合子教諭の定年退職と同時に、久留里も卒業です。彼女の想いは転機を迎えるのか?
 地理学の視点で日常を切り取るという意味で、新鮮な驚きを感じられる作品です。

高杉さん家のおべんとう (4)

初めての衝突
評価:☆☆☆☆☆
 香山なつ希の企画で、丸宮光と高杉久留里の3人で、不思議の国のアリスをやることになった。その練習のため、高杉家を使わせて欲しいという久留里だが、高杉温巳はてっきり自分が不在の間に丸宮光と二人きりになると思い込み、それを断ってしまう。
 その後、香山玲子から参加者は3人だと聞いた温巳は、過去の高杉美哉との思い出を振り返り、久留里のお客様をもてなすための料理を作り出す。

 生徒会役員選挙で戦うことになった園山奏との出会い、そして小坂りいなとの関係の変化、温巳に訪れるオファーなど、続々と起きる転機が、ついに温巳と久留里、初めてのケンカを引き起こすことになる。
 思い出と淡い想いが折り重なり、現在の関係を生み出していく様が描かれる。

高杉さん家のおべんとう (3)

それでも何も変わらない
評価:☆☆☆☆☆
 高杉美哉の急逝により一人になった高杉久留里を引き取り、自身の就職も決まって、高杉温巳は安定した生活を営めるようになった気がしていた。
 ところが、PD学振の小坂りいなに恋したスーパーまるまるの跡継ぎのB4の丸宮元が、一方的に高杉温巳をライバル視するようになり、仕事場の雰囲気は微妙。それに加え、丸宮家と同様に高杉家にも複雑な家庭の事情が会ったことが発覚し、元々余裕の無い温巳は、テンパリ状態になってしまう。

 そして、丸宮元の小坂りいなに対する想いを知った久留里も妙な状態になり、友人の香山なつ希や丸宮光にも色々と気を遣われてしまうのだった。

 家族とは何かという問題について、丸宮家と高杉家をレアケースの代表例としながら、実践的に考えていくエピソード。みんなで蜂の子を食べに行ったり、学会のホスト校としててんやわんやになったり、林間学校に行って久留里が大活躍したり、日常の中にドラマを盛り込んでくる。

高杉さん家のおべんとう (2)

不器用な気遣い
評価:☆☆☆☆☆
 オーバードクターとして不安定な日々を送ってきた高杉温巳は、名古屋にあるN大学の風谷久郎教授の研究室に助教として着任することになった。残る心配は、中学校で浮いている、年の近い従妹の高杉久留里の学校生活だ。最近引き取ったばかりの彼女に、保護者として良いところを見せたい気分。
 しかし現実に、他人のことを気遣うという習慣が無い環境で生きてきた温巳には、それは中々に荷が重いことだ。その証拠に、彼に対する久留里や、特別研究員の小坂りいなの気持ちに全く気づくことがない。

 そんな彼らの生活に、香山なつ希や丸宮光という、久留里のクラスメイトも深く関わってくるようになる。

 りいなはDC1だったんだ。てっきりPDだと思っていた。そんなわけで、助教に着任した温巳は、りいなの博士論文取得のサポートに駆り出されたり、フィールドワークに出かけたりしながら、久留里という家族に精一杯のことを使用と奮闘している。…おおよそ空回りだけど、そこに愛すべき要素があると言える。

高杉さん家のおべんとう (1)

突然保護者になりました
評価:☆☆☆☆☆
 31歳の高杉温巳は地理学の博士号を取得したものの、就職先がなく大学に研究生として籍を置いているオーバードクターだ。それがある日、彼が大学入学時に失踪した年の近い叔母の高杉美哉が急逝したという連絡が入り、その娘の久留里の未成年後見人となることになった。
 職も妻もないのにいきなり中学生の保護者となった温巳は、何から手をつければよいのかてんやわんやの大騒ぎ。同期で准教授の香山玲子や、特別研究員の小坂りいならにこねくり回されつつ、口数の少ない高杉久留里の機嫌を伺いつつ、ほんの少しずつ家族を形成していく。

 温巳自身、高校三年生の時に両親を事故で亡くし、その事故がもとで美哉が失踪したという、稀な経験をして育ってきた人間だ。その上、フィールドワークで教授の風谷久郎と共に世界中を巡ってきた結果、あまり一般的ではない思考で行動に至ることもある。
 だが、高杉久留里も、美人だということで周囲からは妬まれ、甘え方を知らずに育てられた経緯もあり、かつ、母親を亡くしたことで、人と接することに憶病になっている面もある。それを無表情という仮面でよろい、日々を生き抜いてきたのだ。

 そんな二人が出会い、ひとつ屋根の下で家族を目指す。その関わり合いの中で、どんなものが生まれてくるのだろう?

 主人公がオーバードクターということで衝動買いした訳だが、思っていた以上に面白い。中学生が家計を切り盛りすることを趣味としていたり、生活の中に学問的な視点を持ち込んだり、日常をちょっと変わった側面から解釈するという面白さがある。
 その上で、何人かの同年代の男女が絡めば当然発生してくるのが恋愛感情というものなのだろう。いや、それを当然と読者が望んでいるからこそ描かれるのであろうが、ちょっと変わった切り口にお約束の要素をまぶすことで、どちらサイドからでも楽しめる作りになっているとも言えよう。

 しかし、ボクの知る限りでは、文科省の大学院改革以降、あまりオーバードクターという呼称は使わず、パーマネントな職についていないそれは、ポスドクと統一的に呼んでいた気がする。そう思うと、ネタ元は一定以上の年齢層なのかもしれないな。

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