天祢涼作品の書評/レビュー

闇ツキチルドレン

警察の権力闘争
評価:☆☆☆★★
 地方都市で連続して起きる動物切りつけ事件。かつての大物警察官僚、最上倉太郎が関わっていると告げる現役警察官僚にして音宮美夜の飼い主でもある矢萩の指示に従って、事件現場へと入る美夜。電車内での痴漢犯を通じて出会い、妙に彼女に懐いてくる高校生の城之内愛澄を助手として、捜査を開始する。
 しかし相手は元大物。有形無形のコネと現在も衰えることのない風格を武器に、美夜の捜査を妨害してくる。遅々として進まない捜査の中、ついに事件はエスカレートして殺人事件へと発展してしまう。彼女の共感覚は犯人を見つけ出すことが出来るのか?

 何というか男性の扱いがすごく酷い。登場する男性は、変質狂、狂信者、女性を騙すやつ、陰謀家といった感じ。まあ、女性も含めて、総じて普通の人は登場しないので、仕方が無いといえば仕方が無い。周囲がこんな人間ばかりだったら、相手をするだけで疲れそう。そして、読んでいても釈然としなくて疲れる。
 今回は共感覚という能力があまり前面に出てこないんだなあと思っていたら、一応最後の解決の切り札として使われていました。

 作中で共感覚は特別なものではないと盛んに美夜は主張するけれど、やはりどうしても彼女はそこに囚われた人間にしか見えない。そしてその"傷"を自分に納得させるために駆使している感じがする。その結果として、もっと傷つくことを見続けているように思えるな。

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キョウカンカク

人の本質は声に現れてしまう
評価:☆☆☆☆★
 トリックよりも、探偵と助手のやりとり、共感覚という特殊能力を軸に置いた構成などに主眼が置かれている感じがする。共感覚とは、五感のうち一つの刺激を受けることによって、他の感覚も刺激される特性のこと。この作品の探偵である音宮美夜は、音に色や形が見える共感覚の持ち主だ。
 この共感覚は、作中の説明によれば十万人に一人程度で現れる特性で、別に超能力というわけではない。探偵助手役を演じる高校生天祢山紫郎が指摘しているように、音が色や形で見えるだけなので、音響解析などの存在を考慮すれば、際立って飛びぬけているという能力ではない。しかも、人とは違うものが見えるせいで、その認識に引きずられてしまう気もする。
 だが考えてみると、科学捜査は誰かが異常性に気づかなければ実施されないのだから、何気なくいるだけで普通は気づかない関連性に気づいてしまえるというのは、やはり明らかに突出しているのだ。そして、もう一つの音宮美夜の特殊性により、本来の目的を達成する。

 読後に何を思うかは人によってかなり異なるだろう。犯罪捜査の在り方としていかがなものかと思うかもしれないし、前半に登場するセリフが強烈な皮肉として響いてくるかもしれない。そして、この結末から共感覚を見直した場合、全てを超越する神の能力の様にも思えてきてしまうのだ。

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