海堂尊作品の書評/レビュー

チーム・バチスタの栄光 (下)

転調、そして解決。しかしまだ問題はある
評価:☆☆☆☆★
 厚生労働省から白鳥が派遣されてきたことにより、作品の様相が一変する。急激にテンポが上がる。上巻でいったんは平静に収まったかのように見えたチーム・バチスタの現状が、全く違う人間模様として描き直される。ここに至ると、上巻での作業が、医療の常識などによる密室を構築していくものだったことが理解できる。下巻ではこの密室を崩すのだ。
 小気味よい展開であるし、キャラクターも良く動く。しかし、人の死が非常に軽く扱われているところは若干気になる。キャラクターからも行間に見える作者からも、死者に対する畏敬の念を感じないのだ。これは、現状の医療関係者が実際にそのように思っており、その問題提起をするためにこのような書きっぷりにしたのかもしれない。逆に、現役医師である作者の普段の考えがそのまま滲み出たのかも知れない。いずれかは分からないが、ここの部分はもう少しフォローする必要があった気がする。

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チーム・バチスタの栄光 (上)

医療の世界に入り込むための序章
評価:☆☆☆☆★
 アメリカから招聘した医師桐生を中心とするチーム・バチスタは、結成以来の手術成功率100%という驚異的な数字を誇り、大学付属病院の看板だった。しかし、最近になり連続して術中死が発生。この調査が、出世レースから完全に離脱した講師田口に依頼される。全く専門外であり、外科の基礎知識もない田口は戸惑うが、高階病院長の無言の圧力により、引き受けざるを得なくなる。田口はチームメンバーからの聞き取り調査を行ったり、手術観察を行うが、全く原因がつかめない。そんな時、再び術中死が発生してしまう。

 日本の心臓移植の問題や、死因不明のまま処理されてしまう現状に対する危機感を背景として執筆されたと思われるミステリー。栄光に満ち溢れたチームの陰に潜む闇が、田口の調査を通じて少しだけ明らかになってくる。全体としてゆったりとした調子の作品だと思う。ただ、大学病院の医局制度というのをよく知らないので、そこでの生き方についてはあまり共感できなかった。

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