朝岡崇史作品の書評/レビュー

IoT時代のエクスペリエンス・デザイン

考えを整理する機会にはなった
評価:★★★
 本書の内容は冗長で、またカタカナ用語を多用しているために、何かを伝えたいのか、あるいはぼんやりとごまかしたいのか、その意図が伝わって来にくい。しかし、退屈で眠くなるのを我慢して読み切った結果、IoTについて次の様に理解した。
 IoTとは、利用者側から見れば思考・行動の外部化であり、提供者側から見れば利用者との接点の自動化・簡略化であると言えよう。

 例えば、散歩に出かけた人が喉の渇きを感じて自動販売機で飲み物を買うと場合を考える。通常の流れは:
散歩する->喉が渇く->自動販売機を探す->飲み物を買う
だろう。しかし、IoTの世界では:
散歩する->スマホが100m先の自動販売機でいつも買う飲み物が売っているのを教えてくれる->喉が渇いたと感じる
と言う様な流れになる。自分で喉が渇いたから飲み物を買おうと思うよりも前に、飲み物が買えることを教えてくれるのである。
 一方、提供者側(この場合は飲み物製造業者)から同じ現象を見てみる。通常の流れは:
自動販売機で飲み物が売れる<-管理者が在庫を補充する<-飲み物を発注する<-注文を受けて飲み物を製造する
だろう。しかし、IoTの世界では:
自動販売機で飲み物が売れそう<-自動販売機に補充しに行こう<-飲み物を製造しよう
となる。製造業者が直接利用者の需要を把握できるので、中間段階が単なる窓口となってしまうのだ。

 このIoTによって、企業のマーケティングは企業主語の発想から顧客主語の発想へと転換しなければ対応できないと本書は説く。
 ただ、この考え方が全ての業界に適用できるかには疑問が生じる。例えば、自治体の発注を受けて道路を補修する土木業者を考えてみる。この場合、道路の利用者は住民だが、発注者は自治体となり、土木業者にとっての顧客とのずれが生じる。この場合、土木業者の取るべき発想の転換とは何だろうか。ヒントはGEのインダストリアル・インターネットにある。

住民が道路の陥没を発見する->役所が陥没の連絡を受ける->役所が土木業者に発注する->土木業者が補修する
という流れは、IoTでは次の様に変わるべきということだ。
道路の陥没を予知する、あるいは検知する->土木業者が補修する
つまり、土木業者は、道路が問題なく運用できる状態を維持するというサービスを丸ごと請け負うという、ビジネスの変換が必要になるということだ。

 このあたりのことを自社でどのように検討すべきかを述べているのが3章で、架空のIPPの検討プロセスを紹介している。大雑把に言うと、SEPTEmber/5Forcesで未来視点のミクロ・マクロ環境分析を行い、それに基づいて自社の未来シナリオを描き、Do's&Dont'sで自社のコアバリューとすべきことしないことを明らかにし、ブランドのありたい姿を構築するというプロセスだ。そして最終的に、なりわいワードという、自社の未来のビジネスを一言で表せるようにする。

 IoTというのは一部の業界の話だと思っていた部分があったが、考えを整理する機会にはなった。

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