花森安治作品の書評/レビュー

灯をともす言葉

柱のない哲学
評価:☆☆★★★
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
せめて どれか もう一つ二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつか あなたの暮らし方を変えてしまう

 以上のような序文が与えられているが、残念ながら私にそれは当てはまらないようだ。なぜならば、この本からは著者の一貫した哲学が感じられない。それも当然で、これらは一貫した思想の下に組み立てられた本ではなく、折々に寄稿してきた文章を一冊に纏めたものだからだ。ゆえに、その時々で変遷している著者の思想があからさまになっており、読んでいるとちぐはぐな気分になっていく。

 前半から感じるのは、個人主義的で体制批判的な精神だ。これは著者の従軍経験が戦後にもたらした精神だろう。戦争の責任を指導部のみに押しつけ、そこまで追い込んだ庶民の空気とマスコミの責任を無視し、全体のことなど考えることなく、自らがやりたいことをやるべきだという主張がそこかしこから読み取れる。
 後半になり、おそらくは時を下るに従って、体制批判の矛先は、国家や国会議員から大企業、マスコミ、大量消費社会へと移り変わっていく様が面白い。初めのうちは消費は美徳でケチは悪と言っていたのに、そのうち真逆の主張を展開したりもしている。時代で考えが変わるのは当然なのだが、それを一冊に凝縮すると、あまりの朝令暮改に頭がクラクラする。

 本書の出版経緯は分からないが、過去の文章を纏めて出版する際には、加筆修正は任意ではなく義務だと思う。そして一冊の中での主張はブレさせないべきだ。

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