山中智省作品の書評/レビュー

ライトノベルよ、どこへいく 一九八〇年代からゼロ年代まで

読者により生み出されたジャンル
評価:☆☆☆☆★
 修士論文をベースにしたライトノベルの来歴に関する分析本。主に90年代の黎明期、00年代前半の爆発期、00年代後半の越境・拡大期について、新聞、雑誌、評論などの記事をベースに、いかにしてライトノベルが一般化するに至ったのかをひも解いている。

 大まかな論旨は次の様になろう。
 90年代にゲーム・アニメなどにおけるファンタジーの基本設定を前提とした作品群が、SF・ファンタジー・ジュヴナイルなどのジャンルに散見されるようになる。これを受けて、各ジャンルのコミュニティを作る読者たちは、それまでの文脈で語れない前述作品群を切り分け、名付けようとする。このときの候補のひとつとして登場したのがライトノベルだ。そして出版社は、ここに潜在的な市場があることを嗅ぎ付け、様々な作品を出版していく。
 これらの名前のないジャンルの作品を愛読書として育った人々が、00年代前半に作家としてデビューし始める。彼らはそれまでの流れを受け継ぎ、独自のスタイルを確立していく。彼らは当然このジャンルに対して肯定的であるため、このジャンルを宣伝していく。その時に定着したのがライトノベルという表現だった。そしてこれを出版社が後押しして、どんどん拡大していく。

 00年代後半、ライトノベルで育った作者たちの中には、一般文芸の方向へ進出していくものも現れ始める。そして、一般文芸における文学賞を獲得するものも現れる。いわゆる越境作家と呼ばれる人々だ。出版社は彼らを前面に押し出し、これまで限られた市場だったライトノベルを、一般文芸の読者たちにも売り込み始める。
 ここには活字離れと言われ読み手を失いつつあった一般文芸も、読者を連れた新たな書き手を喜び、文学は芸術だと言う純文学的見地からの葛藤を孕みながらも、大筋で受け入れていくようになる。そしてさらに新たな市場を求める出版社は、ライトノベルを児童文学方面に回帰させるようにもなる。

 時代時代の切抜きを列挙し、そこから当時の空気を汲み取っていく試みは面白いと思う。ただ、書き方として、「おわりに」に書かれているような内容を「はじめに」で示して欲しかった。学術論文は、最初に結論がないとその後の内容が分かりにくい。結論が初めにあるからといって続きを読まないようなことはないので、出し惜しみのあらすじみたいな書き方はやめて欲しかった。
 また、盛んに”力学”という単語が使われるが、著者が感じるほどの力学は感じなかった。どちらかというと、ライトノベルは読者の違和感から発し、その読者が作家になることによってジャンルとして確立していったのであって、出版社はその後を追ったに過ぎないという印象を受けた。もし、著者が力学の構図を重視するのであれば、その構図を図示するなど、分かりやすい表現をしていただければありがたかったと思う。

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