山田修作品の書評/レビュー

残念な経営者 誇れる経営者

ニュースの解説コラム
評価:☆☆☆★★
 ニュースサイト「ビジネスジャーナル」に連載の記事を再録した「間違いだらけのビジネス戦略」の続巻。メディア報道の多寡を重要度として、経営を失敗した企業の経営者たちに苦言を呈している。2015年頃の出来事もあるため、若干、鮮度の低い話もある。

Chapter 1 反面教師にしたい残念な経営者たち
電通、三菱自動車、シャープ

Chapter 2 事業継承に奮戦する残念な経営者たち
大塚家具、出光興産、クックパッド、セブン&アイ

Chapter 3 一目置きたい戦略型経営者たち
日本電産、トヨタ自動車、ヤマダ電機、霧島酒造、浦安鉄鋼団地、松田商工、ACRO

Chapter 4 醜い代表交代劇を演じた残念な経営者たち
セブン&アイ、ローソン

Chapter 5 これからどうなる? 岐路に立つ経営者たち
しまむら、任天堂、川崎重工業、LIXIL

 一見すると多くの企業が挙げられているようだが、三菱自動車、シャープ、大塚家具、セブン&アイに言及している量が多い。また、霧島酒造、浦安鉄鋼団地、松田商工については唐突感があるが、自身で取材に行ったため言及しているようだ。
 ニュースの解説コラムみたいなものなので、これを読んで経営が分かるようになる訳ではない。

間違いだらけのビジネス戦略

元プロ経営者の視座で
評価:☆☆☆☆★
 本書は著者の「ビジネスジャーナル」における連載記事を下記の章立てに再編し収録している。それぞれの記事で扱われているのは、2014年から2015年にかけて起きたビジネス上のイベントだ。それぞれの章で取り扱われる企業は次の通り:

CHAPTER1 戦い終わり日が暮れて
・大塚家具:父娘戦争
・モスバーガー
・マクドナルド
・P&G
・タカラトミー

CHAPTER2 戦略を誤ると名門企業も崖っぷち
・スターバックス
・楽天
・ヤマダ電機
・ヨドバシカメラ
・任天堂
・イオン

CHAPTER3 今年のワースト経営者は誰だ?
・スカイマーク
・ソニー
・シャープ
・理化学研究所:前理事長の怠慢
・ユーシン:もらいすぎ報酬
・セブン&アイ:世襲準備への嫌み

CHAPTER4 プロ経営者がブーム? 企業文化を根こそぎにする猛者たち
・ローソン
・サントリー
・キリン:暗黒の5年間
・ベネッセ
・LIXIL:藤森義明氏
・武田製薬

CHAPTER5 卓越した戦略経営者に学ぶ
・日本電産
・富士フイルム
・パナソニック
・日本M&Aセンター
・ポーラ化粧品
・太陽工業
・ビッグホリデー
・ハードオフ

CHAPTER6 吉か凶か、繰り出した戦略大技はどう着地する?
・岩谷産業
・トヨタ
・GE
・スシロー
・アサヒビール
・コメダ珈琲
・オリックス

CHAPTER7 変わるビジネス環境、生き残り勝ち上がれ
・社外取締役義務化
・ハラルビジネス
・アジア進出の負の側面
・香港デモ
・「The Future of Employment」の紹介

 それぞれの記事は数ページ程度の分量なので簡単に読める。自分はそのイベントをどう捉えていたかという感覚と比較して読むと良いと思う。

本当に使える経営戦略・使えない経営戦略

有名戦略の有用性は?
評価:☆☆☆★★
 ファーストリテイリングや星野リゾート、ヤマダ電機などを例にとり、経営戦略とは何を指すのか、共通認識を醸成した上で、舶来の経営コンサルティング会社や経営学の権威たちが発表してきた経営セオリーのほとんどが役に立たない、効果の実証されていないものであると主張し、また、各種フレームワークを使うだけでは経営戦略を立てることができないということを明らかにしている。
 その上で、経営戦略を立てる助けとなるツールとして、戦略カードとシナリオ・ライティングの手法を説明し、自身の経営セオリーとして繁栄の黄金律を紹介している。

 戦略カードとシナリオ・ライティングについては、既刊の「6社を再生させたプロ経営者が教える〈超実践的〉経営戦略メソッド」でも説明されているため、こちらを読んだことがある方は新たに買う必要はないだろう。
 特に、既存の経営セオリーがいかにだめか、というようなことはどうでもよいという方は、上記既刊を読んだ方が良いように思う。

6社を再生させたプロ経営者が教える〈超実践的〉経営戦略メソッド

ぼんやりを明確にする
評価:☆☆☆☆☆
 タイトルに“実戦的”とある。何が実戦的かと言えば、経営戦略を策定する実戦的な方法論を明示しているという部分が実戦的だ。その様な本は巷にあふれているではないかと言うかもしれないが、分析の手法や概念的な経営戦略像を提示している本は数多くあれど、意外に、具体的にどうすれば経営戦略を作れるか、に言及している本は少ない。
 本書においては、5つのステップ・10の作業として、課題解決型の経営戦略を立てる方法論を説いている。この方法論の最も大きな特徴を一つ挙げるならば、それは、分析のステップがないことだろう。

 戦略コンサルティング会社が影響力を持つ領域においては意外に信じられていないのかもしれないが、外部の人間よりも内部の人間の方が経営課題をよく認識している。考えてみればこれは当然のことで、日々そのことだけを考えている人の方が中身をよく知っているのは当然だ。
 そして当のコンサルティング会社もそのことは認識しており、経営戦略の立案には、まずヒアリングで現状調査をすることが標準的なやり方だろう。この現状を様々なフレームワークを用いて分析し、そこから導き出される課題と解決策を提示するのが、コンサルのお仕事ということになっている。

 しかし、何万人、何十万人という組織ならいざ知らず、数千人、数百人規模の企業ならば、ここまで形式ばって分析するのはお金の無駄になる可能性も高い。各部門単位で見れば一人のマネージャが十分把握できる規模になるわけで、その人は自分の職掌における経営課題と解決策について、ぼんやりとは把握できているはずなのだ。ゆえに、その“ぼんやり”を誰にも分かる形にして、その方針を機関決定すればこと足りる。
 本書では、まず3年程度の経営目標を定め、それとは別に経営課題を各所からかき集め、重要な課題を選択して、それに対する解決策を定める。そしてそれを実行した場合に生じる問題を認識して、対応策を決めておくという、方法論を提唱している。

 この際に重要なことは、コミュニケーションと公平性だ。課題はヒアリングしなければ分からない。しかしトップが誰かに肩入れすれば不公平が生まれる。このバランスを取るためには、トップは時に孤独も受け入れなければならない。
 そうして改革を断行したならば、その利益は従業員にも分配されなければならない。それをあらかじめ宣言しておくことで、従業員のモチベーションは高まっていくのだ。

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