一六世紀文化革命 (1)(山本義隆)の書評/レビュー


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一六世紀文化革命 (1)

大発見の基礎工事
評価:☆☆☆☆★
 前著「磁力と重力の発見」では十七世紀科学革命を扱った著者であるが、本著では科学革命の下地を作った十六世紀に起こった社会の変化を、十六世紀文化革命と称して考察している。1巻では、芸術、医学、鉱業、数学の分野における変化とその原因を例証する。
 十六世紀に上記の分野で起きた事を一言で言うならば、知識の一般開放、と表現することができる。そして、この原因すらも一言で言うならば、社会規模の拡大、であろう。各地に乱立する都市国家や自由都市間の競争、そしてその結果としての戦争の多発により、社会は市場規模の拡大を求めていた。その基盤となったのが、印刷技術の普及と、経験重視の姿勢である。

 市場規模の拡大を下支えする大量生産への移行には、資本の集中が必要になる。しかし、資本があるだけでは物を作ることはできず、製造技術の習得が必要になる。しかしこれらの技術は、ギルドなどの職能集団が徒弟制度などにより門外不出のものとして秘匿してきた。この開示に一役買ったのが印刷技術である。俗語で書かれた技術書が普及することにより、資本家たちが製造技術の秘密を知り、職能集団が労働者に変化していくことで、大量生産を可能にしていった。そしてこの際に、投資効果の検証をするために技術の定量化が促進され、代数学の発展を促していくことになる。

 戦場は大量消費の場である。武器も消費されれば、人命も消費される。武器はともかく、人命は簡単に失うわけにはいかないので、戦場での医療が発達することになる。それまでの医療は、過去の文献を絶対の権威とし、その解釈を行う者が上位者であり、実際に手を使って治療する行為は下賤とされてきた。しかし、戦傷や伝染病の治療に過去の文献が全く役に立たないことが明らかになると、その権威は失墜し、実際に治療をする者の社会的地位の向上をもたらすことになった。そして、印刷技術の普及は、これらの経験則の書籍化を促し、治療者の地位向上を助長していくことになる。
 一方、武器の大量生産には設計図が必要であり、作図には3次元の物体を2次元で表現する技術が必要とする。このような技術もかつては門外不出の技法として芸術家に秘匿されていたが、印刷技術の普及は技法の書籍化も促し、合わせて幾何学を発展させ、17世紀のケプラーによる天体法則の発見につながっていくのである。

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