空色パンデミック (1) INNOCENT GIRL DAYDREAMING(本田誠)の書評/レビュー


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空色パンデミック INNOCENT GIRL DAYDREAMING (1)

一度は空想したことがあるはず
評価:☆☆☆☆★
 高校入試試験会場に向かうためにホームで電車を待つ仲西景の前に現れた、妄想全開で行動する穂高結衣は、突発性大脳覚醒病、通称空想病の患者だった。
 空想病患者はトゥラウム波と呼ばれる特殊な脳波を発し、その脳波の届く範囲にいる人間は、強制的に患者の空想世界に取り込まれてしまう。しかし、多くの場合、トゥラウム波は本人にしか届かないので、客観的には単なるイタい人に過ぎない。

 ひとまず彼女をやり過ごして、無事面接会場までたどり着いた景だったが、面接試験場に結衣が乱入してきてしまう。現場に居合わせた同じ受験生の青井晴の機転もあり、無事に合格できたのは良いのだが、その副産物として、何故か結衣との縁が結ばれてしまった。
 彼女に振り回されることになった景の運命の向かう先は…?

 設定自体が奇抜かというとそういうわけでもなく、妄想が本当になったら世界はどうなるだろう?、という様な問いから出発しているという点で、個人的にはとても理解がしやすい。ではこれを楽しく読ませる要素は何かと考えてみると、一つには主人公の語り口があるのかもしれないと思った。
 結衣により引き起こされる事態は、普通だったら遠巻きにしてしまう類のものだ。しかし景は、巻き込まれてしまったという部分はあるものの、正面から受け止めて、語り口の上では淡々と処理してしまう。おそらく同じ出来事を、結衣視点で描いたら、もっとテンション高めの物語になる事態だと思うのだが、それを抑え目に表現することで、物語に入り込む上でのハードルが低くなっている気がする。(あるいは入り込まなくても良いようになっているのかも知れない)

 もう一つのポイントはストーリー構成だと思う。あえて抽象的に表現するが、マジシャンが人を驚かすことが出来るのは、観客の思い込みをはずしているからだ。右手にコインがあると観客が思っているときに、実際には左手にコインを持っているから、観客は驚く。
 この論理を物語に置き換えてみると、正義が勝つと思っているときに悪が勝ったり、主人公は悲しんでいるだろうと思っているときに喜んでいたり、女だと思っていたら男だったり、バッドエンドだと思い込んでいるときにハッピーエンドになったりと、いわゆるお約束から外れると読者は意外性を感じる、ということになる。この作品の構成も、この様な意外性を狙った部分があるかもしれない。
 ただ、このとき重要なのは、いまどきシルクハットから鳩を出しても、誰もビックリはしてくれないということだろう。

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