加藤元浩作品の書評/レビュー

項目 内容
氏名 加藤 元浩 (かとう もとひろ)
主要な著作

 加藤元浩さんの作品の書評/レビューを掲載しています。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (40)

評価:☆☆☆☆☆


Q.E.D.iff -証明終了- (12)

評価:☆☆☆☆☆


C.M.B -森羅博物館の事件目録- (39)

評価:☆☆☆☆☆


Q.E.D.iff -証明終了- (11)

評価:☆☆☆☆☆


C.M.B -森羅博物館の事件目録- (38)

評価:☆☆☆☆☆


Q.E.D.iff -証明終了- (10)

評価:☆☆☆☆☆


C.M.B -森羅博物館の事件目録- (37)

評価:☆☆☆☆☆


Q.E.D.iff -証明終了- (9)

評価:☆☆☆☆☆


C.M.B -森羅博物館の事件目録- (36)

評価:☆☆☆☆☆


Q.E.D.iff -証明終了- (8)

評価:☆☆☆☆☆


C.M.B -森羅博物館の事件目録- (35)

評価:☆☆☆☆☆


Q.E.D.iff -証明終了- (7)

評価:☆☆☆☆☆


C.M.B -森羅博物館の事件目録- (34)

評価:☆☆☆☆☆


Q.E.D.iff -証明終了- (6)

評価:☆☆☆☆☆


C.M.B -森羅博物館の事件目録- (33)

評価:☆☆☆☆☆


Q.E.D.iff -証明終了- (5)

評価:☆☆☆☆☆


C.M.B -森羅博物館の事件目録- (32)

評価:☆☆☆☆☆


Q.E.D.iff -証明終了- (4)

評価:☆☆☆☆☆


C.M.B -森羅博物館の事件目録- (31)

評価:☆☆☆☆☆
被害者/犯人は読者! 特別企画「あなたを殺します。」から生まれた2編を収録!未解決事件を題材にした推理ゲームで、森羅と読者が対決!<第27回探偵推理会議>アパート内をグルグル巡る死体。真犯人は!?<動き回る死体>以下の2編も収録!東京近郊の村に、“地獄に通じる穴”が開いた!?<地獄穴>事故死した日本画家の車が再び崖下に落ちてきて!?<ゴーストカー>

Q.E.D.iff -証明終了- (3)

評価:☆☆☆☆☆
3人の女性達がそれぞれ別々に、ある詐欺師の殺害を企てた。パーティーの夜に決行された3つの計画は複雑に絡み合い、驚愕の結末を迎えることに!――「三人の刺客」 小学生の頃、日本に滞在していた燈馬は、自転車泥棒の濡れ衣を着せられる。疑いは晴れたものの謎に終わったその事件と、年月を経て再び対峙することになり‥‥?――「自転車泥棒」 被害者/犯人は読者! 特別企画「あなたを殺します。」

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (30)

勝手な他人像
評価:☆☆☆☆☆
 自分の中に作った勝手な他人像ではなく、目の前の相手自身を虚心に見なければ真実を見落としてしまうというお話だ。

「ドリームキャッチャー」
 長期休暇を取りどこかへ行った恋人が横領疑惑をかけられたため、至急連絡を取ろうとする女性は、彼が残した小物を森羅に見せ、アラスカへと飛ぶことになる。彼の真実とは何か。

「宗谷君の失踪」
 大学に入学して友人になった青年が、突如、連絡が取れなくなってしまう。バイト先のコンビニにやってきていた人物が怪しいとにらんだ彼は、その人物を探し出そうと森羅に協力を依頼する。

「ジョーカー」
 仕事相手の富豪の結婚式に列席したマウは、新郎が刺されて倒れている現場を発見し、犯人だと思われてしまう。

「ピーター氏の遺産」
 マウの紹介で、急死した富豪の遺産のありかを探すことになった森羅と立樹だったが、その富豪は妻に銃殺され、しかもその妻は裁判で無罪になっていた。真相はいずこに。

Q.E.D.iff -証明終了- (2)

断ち切りがたい未練
評価:☆☆☆☆☆
 一見するとすっぱりと決断した結末の様に見えるのだが、実際は捨てがたい未練がいつまでも残っているという、結構始末の悪い話でもある。

「素っ裸の王様」
 売れない芸人が最後の思い出作りのためにコントの脚本を書く。面白かったそれはベテラン芸人の耳に入り、悪徳マネージャーの策略で奪われそうになってしまう。

「殺人のかたち」
 ロキから依頼を受け、マルタ島で起きた殺人事件の真相を明らかにすることになった水原可奈と燈馬想。そこで明らかになる意外な真実とは?

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (29)

真実の二面性
評価:☆☆☆☆☆
「プラクルアン」
石油王の遺産の中に大切に保管されていた、量産品のタイのお守り。そこに隠された石油王の哲学とは?

「被害者、加害者、目撃者」
ひったくられたバッグを巡り、持ち主が2人現れる。いずれも被害者の様であり、加害者の可能性もある。何が真実なのか?

「椿屋敷」
富豪の孫が遺産として屋敷を残された。そこに隠された秘密とは?

「自白」
起訴された強盗殺人犯には、犯行時に返り血がついていないという、犯人か疑わしい点がある。弁護人はその点を突き無罪に持って行こうとするのだが、被告は発言を翻し、自分が犯人で良いと言い始める。その真意とは?

Q.E.D.iff -証明終了- (1)

仕切り直し
評価:☆☆☆☆★
「iff」
女にだらしない、人の真実を描き出す芸術家が何者かによって殺される。現場は密室だ。容疑者は4人。そのいずれが犯人なのか?

「量子力学の年に」
100年前にとある村にあった、新興宗教の楽園。100年ぶりに発見された死体が、過去への扉を開く。その時、その村で起きた事件の真相とは?

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (28)

死者の伝言
評価:☆☆☆☆☆
「キジムナー」
 不正会計を要求されている真面目な公認会計士の正悟は、久しぶりに幼馴染のいる沖縄に帰京する。彼が正直でいなければならないと考えている理由には、幼い頃に出会ったキジムナーが関係していた。

「空き家」
 森羅博物館に刀剣の買取依頼が持ち込まれる。持ち込み主に不審を感じた森羅だったが、依頼人の家の近くにある空き家で、男性死体が発見されたことから真相が明らかになっていく。

「ホリデー」
 内戦状態の小国に雇われている、元アメリカ国務省次官候補ともなった外交官。彼から盗掘の壁画の鑑定依頼を受けた森羅と立樹は、いやおうなしに、国連安全保障理事会での停戦命令議決に向けた活動に関わっていくことになる。

Q.E.D.-証明終了- (50)

年月を超える思い
評価:☆☆☆☆☆
「観測」
 燈馬のMIT時代の同年代の知人であり、工学系の天才少女であるサリーは、現在、観測関係の機器を設計・製造する会社を立ち上げている。そんな彼女から、最近、自分の会社が製造した冷却器が意図的に停止させられ、大事故を起こしかねない状況に陥っているという相談を受ける。これらの観測装置には、ダークマターを観測しているという共通点があった。

「脱出」
 30万円と共に同封されてきた手紙の指示で、可奈と燈馬はエスケープゲームを運営せねばならなくなった。当日になっても現れない主催者に代わり、招待客を案内する二人。やがてこのゲームは、過去の密室殺人事件と関係していることが明らかになってくる。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (27)

手に入れるための行動と末路
評価:☆☆☆☆☆
「アステカのナイフ」
財産を慈善活動に寄付しようとしていた資産家の男性が、アステカの犠牲祭用のナイフで喉を一突きにされ殺害された。容疑者は別れた元妻。その息子から依頼を受け、森羅と立樹は真相を明らかにする。

「爆破予告」
森羅が監修する恐竜展の会場を爆破するという脅迫メールが届く。主催する電機メーカーの広報部は、犯人からの連絡がない中、その動機を巡り揺れ動く。犯人の目的は何か?

「幸運」
新興ゲーム会社の経理部長が社長室で殺害される。密室だと思われる社長室の鍵を持っているのは社長だけ。逮捕された社長に、弁護士はアリバイを作るために偽証するように勧める。そんな彼のもとを、立樹が訪ねてくる。

M.A.U. "ブラック・マーケットの魔女"の事件目録「大入道の屏風」
担当者のミスで手持ち現金がほぼなくなり、マウ・スガールの会社は不渡りの危機を迎えてしまう。早急に現金を手に入れるため、大富豪の依頼をこなすことにするマウだったが、それは存在しない大入道の屏風を見つけるというミッション・インポッシブルだった。

Q.E.D.-証明終了- (49)

価値の基準
評価:☆☆☆☆☆
「無関係な事件」
就職活動でお祈りメールばかり送られている大学生が、バイト先で殺人を目撃してしまう。被害者からダイイングメッセージとして託されたのは、香港マフィア抗争の犯人の情報だった。

「ラブストーリー」
大学時代に完成しなかった映画を45年ぶりに完成させようとしている老夫婦。当時のヒロインとそっくりな容貌の可奈は、ラストシーンの代役を依頼される。ところが、その映画の編集作業中、夫が急死してしまう。彼の遺したラストシーンの真の姿とは?理想と現実、どちらの愛を選ぶのか?

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (26)

瞬間に変じる価値観<
評価:☆☆☆☆☆
 それまで信じていた価値観が一瞬で変じる時を切り取る。

「ゴンドラ」
 テレビによる出る料理研究家が、義弟からスキャンダルを種に金を脅し取られそうになり、殺害を決意する。雪山のゴンドラを利用した犯罪計画を立てて実行するのだが…。榊森羅と七瀬立樹がその真実を明らかにする。

「ライオンランド」
 呪医(オムオフ)のガンビットに会いに行く依頼を受けた榊森羅と七瀬立樹は、マサイの住む村へと向かう。ガンビットの住むライオン生息地の奥の森へと向かい旅立つ榊森羅は、マサイの村で起きた殺人事件の真相を暴きだす。

「兆し」
 香港経済界の大物が、榊森羅の買い付けたトウガラシの魔除けのお守りを手に入れるためにやってきた。榊森羅は売却条件として、彼がなぜそれを手に入れたいのか明らかにするよう求める。それは、文化大革命で起きた事件に関係していた。

Q.E.D.-証明終了- (48)

あなたの人生はどれか
評価:☆☆☆☆☆
 同じような多くの人の中に埋もれてしまう綺羅星のような才能と、それに憧れて道を踏み外してしまう人生。

「代理人」
 人気の覆面作家である世見一夏のエージェントが殺害される。エージェントの所属会社は、原稿を取るために新たなエージェントとして天道星子を送り込む。ところが気難し屋の相手は、エージェントを殺した犯人を捕まえれば原稿を渡すというのだった。

「ファイハの画集」
 モロッコの貧しい少女ファイハ・ララシュは、絵を描いて暮らすという密かな夢を持っている。その夢を追い求め、スペインへ密入国しようと密航船に潜り込んだファイハだったが、その船が麻薬密輸船であり、欧州国境警備の襲撃を受けてしまう。
 一方、燈馬想と水原可奈は、世界一のお金持ち若夫婦の慈善事業の一環で、奨学金が授与されることになったファイハの行方を探すことを求められるのだった。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (25)

恋愛のカタチ
評価:☆☆☆☆☆
 今回は男と女の恋愛がテーマのようだ。始まってもいない恋愛や終わってしまった恋愛、片思いなど、様々な始まりや終わりの形がある。そこにある人間の姿は物語を超える。

「掘り出し物」
 クラスメイトの横槍の従兄である横槍達洋がペンションを開業する。開業資金200万円を貸した横槍家は、成功可否を確認するために、息子とその友人たちを送り込むのだった。
 やってきたビーチ…から遠く離れた山奥にポツンと建てられた、ライフラインも完備されていないボロ家で準備中の従兄を見て絶望しそうになるのだが、このペンションには宝が隠されているという。それは事実なのか、あるいは売り主のホラなのか?

「バッグストーリー」
 輸入雑貨店のバイヤー見習いの近山登は、社長と共にフィレンツェに買い付けにやってきていた。高校時代の恋人が故郷で結婚するという話を聞き、物悲しい思いを抱きながらフィレンツェを歩く彼は、榊森羅と七瀬立樹に遭遇する。
 幼いながらもバリバリ仕事をする森羅を憧れの目で見ながら後をつけた彼は、彼らがエリオ・ビアージという革職人からヌメ革の鞄を譲ってもらおうとしている場面に遭遇する。その商談に横から割り込んだ彼は、考える人が何を考えているか、を考えるという条件を出されてしまうのだった。

「その朝、8時13分」
 日々野常男は、朝のニュースで行方不明と言っていた戸崎桜が、駅のホームにいるのを3日連続で目撃する。しかも映像を再生したように、同じ言動をするのだ。
 不審に思った彼は彼女の後をつけるのだが…。

「香木」
 ななせ湯常連が入れ込んでいる香道の師匠、椿芳枝がもつ伝来の香木が原因で、奇妙な幽霊騒動が発生する。解決に乗り出す榊森羅と七瀬立樹が明らかにする真実とは?

Q.E.D.-証明終了- (47)

人と人が関わることの難しさ
評価:☆☆☆☆☆
 事故の満足と他者の満足の基準は異なるわけで、一方が他方のためにとしたことでも、それがすんなりと伝わるかは分からない。そんな擦れ違いが破滅をもたらすか、あるいは誤解が解けるのか、いずれかによって結末は大きく変わってしまう。

「陽はまだ高い」
 インドネシアのバリ島にあるアメリカ国家安全保障局所管の研究所で、研究データが盗まれるという事件が発生する。警備責任者のムティアラが相談したエバらの仲介で解決に乗り出すことにした燈馬想と水原可奈は、バリ島でくつろぐ研究責任者クルト・ギーデルと出会う。彼はNPクラス問題の権威だった。

「坂道」
 世界的モデルとしての道を進もうとしている歌川亜季は、その一歩を踏み出すかどうかで躊躇していた。決断をするためには、中学時代の友人の真意を問いただす必要がある。そんな思いでやってきた同窓会で彼女が求めた友人とは、水原可奈だった。
 中学時代にあった、ゲームの盗難事件で疑われた彼女を即座にかばった水原可奈は、なぜ彼女を信じることが出来たのか?そこにあったのは信頼か、あるいは…?

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (24)

本当に価値のあるもの
評価:☆☆☆☆☆
 歴史ある骨董品は価値あるものだが、個人にとっての価値あるものとは、普遍的ではない価値の可能性がある。だがそれだからこそ、個人が生きる意味がある。

「二笑亭」
 両親を火事で亡くした深川理香は、同じく火事で生き残った兄の深川冬綺が、両親の遺産を使って奇妙な建物を建て始めたことに不信を抱く。その建物は、昭和初期の金満家、渡辺金蔵が建てた二笑亭を模したものだった。
 なぜ兄はそんな奇妙な建物を建て始めたのか。そして、両親が亡くなった火事の真相とは?


「ダイヤ泥棒」
 とある美術館で、クラリティーはVVS1、カラーはイエロー、121カラットのダイヤモンドが展示されることになった。ところが、警備体制の隙を縫って、そのダイヤモンドが盗まれてしまう。
 容疑者は現場に残っている人々のみ。一体誰がどうやって盗んだのか?


「レース」
 貴族のオズウェルが、ヨットに火をつけて謎の死を遂げた。長女のヒルダは、父親が叔父のパットを事故に見せかけて殺したのではないかと疑い、調査を依頼する。
 ヒルダとは全く性格の異なる次女のアルバは、ヒルダの懸念を笑い飛ばすのだが、もし父親が叔父を故意に殺したのならば、自身の結婚式に遺影も持ち込みたくないという。事件の動機と真相は?


「掘り出し物」
 マウ・スガールは部下のクロック・エバートに連れられて、霊媒師レイン姉妹の降霊会に参加する。降霊会に使われてきた年代物の箪笥のオークションのプレイベントだ。ところがその現場で殺人事件が発生する。
 警察により足止めされたマウ・スガールは、仕方なく事件の真相を解き明かすのだった。

Q.E.D.-証明終了- (46)

エンターティナーの矜持
評価:☆☆☆☆☆
 今回のエピソードの主人公たちは、いずれもプロである。一人は落語家であり、一人は作家だ。彼らは大衆の興味を惹くことにより生活の糧を得るが、何を売り何を売らないか、自分の中で境界線を引く必要がある。
 それはどこに引くべきなのか、そんなことを考えさせられるストーリーだ。

「失恋」
 落語家の猫柳角丸に弟子入している元市役所職員の猫柳あやめは、恋人の大西広をネタにして、笑いを取っていた。ライブでもテレビ関係者に褒められ、テレビ出演に色気を出し始めるものの、師匠の許しを得られる見込みがなく、不満を持っている。
 そんな彼女の憧れは、かつてテレビ番組で人気者だった椿屋亀吉だ。師匠とは正反対の亀吉の弟子なら良かったのにと思う日々。そんなある日、亀吉が下町演芸場の楽屋に持ってきた五百万円の札束が消えるという事件が起きる。

 自分の人生の切り売りと、芸の違いについて考えさせるエピソードだ。


「巡礼」
 校正者である内堀小雪は、父親の小説家、内堀昇一郎の未発表原稿を本棚の隙間から発見する。それは、戦前の外務官僚だった雨水滋の妻せつが、山井清明という昏倒強盗に殺された事件の事後談について纏めたものだった。
 ハノイに逃走した山井清明が捕まり、その裁判に証人として出廷した雨水滋は、妻を殺した犯人の減刑を願い出る。なぜ彼はそんな行動を取ったのか。そして、内堀昇一郎はなぜ作品を発表しなかったのか。父の足跡を辿り、内堀小雪は、当時の部下の白露卓蔵や、雨水滋の通訳だった人物の孫娘グェン・ソンを訪ねる。その果てに得る真実とは?

 何を発表し、何を発表しないかという、作家の倫理観に迫るエピソードだ。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (23)

バランス感覚の欠如
評価:☆☆☆☆★
 こちらも最初と最後は身勝手な正義に関係している。1本目は美術的価値が世俗的価値を上回って犯罪に結びついてしまうケースであり、4本目は世俗的価値が道徳的価値を上回って堕落するケースだ。このあたりのバランス感覚が文化であり、人間性なのだと思う。

「4枚目の鏝絵」
 破たん寸前の出版社の経営者から、最後の仕事として、榊森羅は鏝絵職人の未発見の鏝絵を探すことを頼まれた。ところがその鏝絵は、探そうとする者に害をなすといういわくつきの一品で、資料を手に入れるのも一苦労の状況だ。ようやく資料を見せてもらったところで、資料の持ち主が怪我をするという事件が発生してしまう。

「足摺厚焼き卵店」
 年の暮れも押し迫った30日。七瀬立樹の家の大掃除の手伝いをさせられている榊森羅は、厚焼き卵を買うためにお使いに出かける。ところがそのお店の中はひとけがなく、部屋も荒らされていた。一体ここで何があったのか?

「Nobody」
 密猟品を扱う組織を摘発した警察だが、組織内部の仲間割れにより発生した殺人事件の死体が見つからない。それが見つからなければ殺人事件として立件できず、密売組織の解明にも攻め手を欠いてしまう。相談を受けた榊森羅は、容疑者3人から話を聞き、不可解な状況に対する解を提示する。

「グラウンド」
 退任間近の野球部監督が21世紀枠で出場するために、わざとグラウンドをダメにして困難な状況を作り上げたり、部員を退部に追い込んで少数部員を装ったりするという暴挙に出た。しかしそれを理事長にばらしてしまえば、野球部全体に処分が及んでしまうことになる。榊森羅のとった方法は?

Q.E.D.-証明終了- (45)

身勝手な正義
評価:☆☆☆☆★
 いずれの事件も犯行動機は身勝手な正義だ。自分の思い込んだ価値観を以て暴走し、現実を受け止めることができていない。それでもひとつの救いは、事件がきっかけで初めての恋に目覚めた少年が現れたことだろうか。

「金星」
 イケメン男子大学生が自宅で撲殺された。部屋の鍵が特殊であり、合鍵の持ち主が限定されていたため、被害者の恋人の女子大生が逮捕される。しかしその女子大生に大弁護団がついたため、笹塚刑事から紹介を受けた起訴担当検事の陽垣が、燈馬想の許へと相談にやってくる。

「初恋」
 学園のアイドルとも呼べる後輩と付き合うことになった冴えない陸上部員が、初めて彼女を自宅に呼んだ日に、自宅ベランダで死体を発見してしまう。果たして事件か事故か、そして事件だとすると動機と犯行方法は?相談を持ちかけられた水原可奈が安請け合いし、燈馬想は二つの事件を掛け持ちして解き明かすことになる。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (22)

表の仮面と裏の顔
評価:☆☆☆☆☆
 表向きの仮面と本当の顔。そんな人の二面性にスポットが当てられたエピソード群だ。

「夏期補講授業」
 夏休み。電研の所有するソーラーカーが破壊された。プールでは水泳部が、屋上では軽音部が、校庭では美術部が活動している。一体誰が破壊したのか?

「ガラスの楽園」
 榊森羅は仲裁のためにガラパゴス諸島へと呼び出された。地元漁民を突き落としたとして、環境保護の為に島に入っている研究員が告発されたのだ。そして島は、双方の勢力が対立を強め、危うい空気を醸し出していく。
 このときから二百年近く前、チャールズ・ダーウィンがガラパゴス諸島を訪れていた。海軍軍人の行動に不満をぶちまける彼をたしなめる船長は、その矛先が彼の付き人に向くかも知れないと告げる。

「螺旋の骨董品店」
 榊森羅は七瀬立樹と共に、とある骨董店へと向かった。底の店主が撲殺された事件を調べるためだ。ガラクタばかりが置かれたその骨董店で、ただひとつ、店主の席の後ろで虹色に輝いていたのは、アンモナイトの化石だった。

Q.E.D.-証明終了- (44)

現在に胸を張れ
評価:☆☆☆☆☆
 今巻の二話は、ひとつの話の中に、ぞれぞれ、過去の選択を悔やむ人々と、未来への希望を抱く人々が登場する。過去を悔やむ人々は、いつまでも過去に縛られ続け、未来に希望を抱く人々は、より良い未来を手に入れるために果敢に選択を続けていく。
 今選んだことが後から見て優れた選択かは分からない。しかし、その瞬間に悩んで出した結論ならば、少なくとも自分はその選択を否定すべきではない。そして、それがもたらす結果も、胸を張って受け取るべきだ。作中、それぞれに過去を悔やまず現在を肯定する人が登場する。それが作者のスタンスなのだろう。

「チューバと墓」
 咲坂高校探偵同好会の江成姫子、長家幸六、盛田織里は、単なる酔っ払いを殺人被害者と思い込んで騒動を巻き起こした結果、一週間の部活動禁止を申し渡された。さらに問題を起こせば、次は廃部だ。そんなとき、彼らはある廃工場で起きた殺人事件を目撃してしまう。
 匿名で通報したものの、直ぐ駆けつけた警察は現場で死体を発見することが出来ず、殺人として犯人を逮捕することは出来ない。だが、名乗り出れば居心地の良い居場所は失われてしまうかも知れない。クイーン、ホームズ、モルダーの決断は?

「Question!」
 離婚調停で荒れる二組の夫婦と、燈馬想の許に、とある別荘への招待状が届く。その招待状には、招待客それぞれに相応しい問題が提示されており、燈馬想のそれにはフェルマーの大定理が記されていた。
 共にやって来た水原可奈やロキと共に、別荘に隠されたフェルマーの大定理の痕跡を発見していく燈馬想は、出題者の思惑に乗って、二組の夫婦を正しい設問へと導いていく。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (21)

自分にとって大切なもの
評価:☆☆☆☆☆
 他人にとっては大した価値のないものであっても、自分にとっては何よりも大切なものがある。それとは逆に、他人がありがたがるものをありがたいとあがめてしまう人もいる。結局、何を大事にすべきかという自分自身の価値観を持たない限り、自分の人生とは言えないのかもしれない。

「冬木さんの一日」
 ななせ湯の常連である冬木一郎が心臓発作で亡くなった。アメリカに就職して結婚した娘の冬木亜季は、どれだけ誘ってもアメリカに来たがらなかった理由を知るべく、ななせ湯へとやって来た。
 冬木一郎の友人たちと共に彼の一日をたどる旅をしてみたところ、それは退屈で平凡な繰り返しの日常に過ぎなかった。父がアメリカに来なかった理由は何もなかった。そう結論を出して帰ろうとする冬木亜季に、榊森羅は生物観察の基本に立ち返れという。そのアドバイスに従い、七瀬立樹と共に再び父の一日をたどる娘は、父親の見ていた世界を知ることになるのだった。
 当たり前のような日常の中に埋め込まれた宝石のような思いの煌めきが感じられるお話だ。

「湖底」
 琵琶湖のそばに拠点を置く巨大グループ葦原家の依頼を受け、家財の鑑定にやって来た榊森羅と七瀬立樹は、依頼主である次女の葦原藍の意向を受け、一年前に亡くなった婚約者の榎木の死の真相を探ることになる。
 その最大の容疑者は、藍が資産家に嫁ぐことを願っている長女の葦原咲だ。しかし彼女には、事件当日に藍と共に東京にいたという強力なアリバイがある。彼女が設置した見えない落とし穴の正体とは?

「エルフの扉」
 盗品ブローカーのマウから呼び出しを受けた榊森羅と七瀬立樹は、日本にある彼女の店の支店へと向かう。そこで見せられたのは、古代メソポタミアの森の精霊フンババの像だ。
 それが盗品だと感じた森羅は、取引の現場を押さえるべく、マウを付け回す。そして彼女の思惑を見破り、丹念に網を張ったはずだったのだが…。マウの生い立ちが語られるお話だ。

「バレッタの燭台」
 マルタ島にあるマルタ共和国で一件の傷害事件が発生する。なんということはない傷害事件のはずだったのだが、その容疑者であるマテラが、現場である自宅の敷地を騎士団領だと言い張り、自分の死後には騎士団領と騎士団長ジャン・ド・ラ・バレッタの燭台を返還したいと言い出す。
 それを受けて、ドイツ、スペイン、フランス、イギリスが継承者として名乗りを上げた。マルタ共和国外務次官は、ヴァチカン教皇庁を通じてCMBの指輪の主である榊森羅に仲裁を依頼する。  受け継いできた歴史に殉じようとした老騎士の救いの物語だ。

Q.E.D.-証明終了- (43)

不幸の中にも残された救い手
評価:☆☆☆☆★
 今回のお話は因果応報と言うところだろう。ただし、それぞれの話ではそこから結末に至る方向性が正反対。一方は地獄に落ちるし、他方は救われるのだ。どんな状況でも、正しく切り抜ける手はあるということなのかもしれない。

「検証」
 東屋製薬社長の東屋耕一郎が殺され、唯一、アリバイがなかった西陣晶が逮捕された。それから二カ月、被疑者否認のまま事態は進展していない。東屋製薬顧問弁護士の白台正義は、テレビ局を巻き込んで、当日の出来事をシナリオ化してアルバイトの人たちに演じてもらい、西陣以外の人物に犯行が不可能か検証することにした。
 西陣以外の容疑者は、東屋玲子、北中、南井賢三と、いずれも犯行動機がある人物たち。燈馬想は南井に、水原可奈は玲子に扮して検証に参加することになる。だが燈馬は、はじめから、これが望む結論を導かないということを宣言するのだった。

 警察がこれで容疑者を一人に絞り込んで捜査を終結させようとしていたことが信じられない。現実もこの体たらくなら、目も当てられないが…。

「ジンジャーのセールス」
 17歳からトップセールスの道を歩き始めたジンジャーにとって、売れない商品などない。食品、高級車、果ては内戦中で政情不安な地域にある鉱山まで、口八丁で買い手をその気にさせ売りさばいてしまう。
 そんなジンジャーの今度のターゲットは、ビリオン銀行投資部門だ。民間宇宙旅行の実現を目指す企業への投資を引き出すためやってきたジンジャーを迎え撃つのは、MIT経済学部教授から代理を頼まれた燈馬想だ。お調子者の投資部門責任者は暴走気味に投資を決めようとするのだが、どうも怪しい。そしてジンジャーと親しくなった水原可奈は、彼からこっそりと秘密を打ち明けられる。

 ジンジャーという人物自体とその営業手法にこそミステリーが含まれているというお話。当初に作り上げたイメージを良い意味で壊していく構成が面白い。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (20)

言葉の魔力
評価:☆☆☆☆☆
 指輪の守護者である少年の榊森羅に寄せられる謎を解決するミステリーシリーズ。物にしみ込んだ思いを代弁し、断罪していく。

「12月27日」
 クラスのみんなの都合をつけて、忘年会シーズンにクリスマスパーティをすることになった。その参加者である八合目暁彦は悩みを抱えて来た。友人の野辺由可にメッセンジャーを頼んで告白した福山理佐から、色よい返事がもらえないのだ。だが未だに諦めきれない。
 その相談を受けた榊森羅は、彼が宝物にしているフズリナの化石を利用して、一計を案じることを提案する。

 手に入らなかった宝物に固執していると、本当に大事な宝物を失くしてしまうよ、という様なエピソードで、殺人は起きないので安心。

「転落」
 粉飾決算をしているベンチャー社長の江頭正介は、それを告発しようとしている経理主任の手形飛夫を殺そうとしていた。そしてその舞台に、社員旅行先の鄙びた旅館を選択した。  一方、七瀬立樹とその祖父の理事長に連れられ、その旅館にやって来た榊森羅は、一人の男性が寄って風呂に入った結果の事故死に疑問を抱くのだった。

 自分の言葉が人を傷つけることに気づかなければ、そのしっぺ返しで足元をすくわれるよ、という様なエピソードで、考古学は特に関係ない。

「木片」
 森羅博物館に呪われた木片を持って現れた木野藍理は、謎を解けば宝がもらえると誘惑し、榊森羅をとある寺の本堂に連れていく。そして夜中に彼を起こした彼女は、現世と幽世を分かつ境をまたがせ、森羅の精神を捕えてしまった。
 連れて行かれた先は、江戸時代の在野の仏師である木片のもと。そこらに落ちている木切れの中に仏を見出すという彼は、仏師に理想の仏が埋まっている木を与える龍慶の噂を聞き、彼に会いたいと思う。

 珍しくレッドヘリングが仕込まれているエピソード。短編という構成上、こういう無駄なことをすると本来描きたいことが描けなくなってしまいやすいと思うが、今回はそれがあって初めてミステリーとして成立している気がする。
 だけど、過去の罪を断罪するというのは、取り返しがつかなさ過ぎて気が引けるな。

「犀の図」
 榊森羅の養父の一人である元指輪の三賢者モーリス・ランドに呼び出され向かった先は拘置所だった。本当に必要なこと以外は話さないという彼は、森羅を呼んだ理由も話さず、七瀬立樹を困惑させてしまう。
 助手のジーノ・ホワイトから聞いたところによると、親の遺産を整理中の金持ちから預かった版画が紛失してしまい、モーリスはその盗難の犯人として自首したらしい。森羅が捜査の結果手に入れる、モーリスが彼を呼んだ理由とは?

Q.E.D.-証明終了- (42)

それぞれの復讐
評価:☆☆☆☆☆
 今回は復讐劇二本が収録されている。復讐とは相手の存在を抹消するのではなく、相手が大切に思っているものを抹消する方が、効果は高いようだ。

「エッシャーホテル」
 20年前に殺人未遂事件が起きた場所に新たに建てられたホテルは、エッシャーのだまし絵をモチーフにしたホテルだった。オーナーは、世界的大富豪の一族であるエリ・シルバーだ。
 水原可奈のタウン誌の取材バイトにレコーダーとして駆り出された燈馬想は、そのホテルで起きた殺人事件の解決に関わることになってしまう。

 エッシャーのだまし絵をトリックに使うというアイデアがあって構成された物語のように感じられ、犯人の動機になった過去の事件のトリックは、実際に有罪になる事件としてはあまりにも現実味がないように感じられた。だって、現場検証すれば不可能犯罪だということは、一発で立証されちゃう。
 いやそこをあえて、当時の警察のずさんな捜査を批判したかったのかもしれないけれどね。


「論理の塔」
 CPU開発大手のリンデル社で論理回路の設計を行っていたミア・フィールドは、個人的に開発していた斬新な論理回路の設計図を爆破解体対象のビルに隠し、会社を辞めてしまった。
 その設計図を狙うのは、彼女を酷使していた上司のロブ・カーズ、同僚のベリー・グッドマン、元恋人のラビス・ローガンだ。ラビスに呼び出されてやってきた燈馬想、水原可奈、ロキ、エマの前に、ショットガンを持ったおじさんが現れる。

 言葉を軽視したものは、やはり言葉により断罪される。そんな書下ろしのエピソードだ。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (19)

見えない恐怖に対処する
評価:☆☆☆☆☆
 「Q.E.D.証明終了 (41)」と連携したエピソードを扱っている「大統領逮捕事件」、昭和の時代に上流階級の人々を魅了した謎のナイトパブの主人・涼の秘密に迫る「銀座夢幻亭の主人」、女子高校生が目撃した窃盗事件の謎を解く「夜にダンス」を収録している。


「銀座夢幻亭の主人」
 一部書籍の販売規制法案を提出している衆議院議員・石寺一郎の依頼を受け、三十年も前に亡くなった、銀座のナイトパブ「夢幻亭」の主人・涼が好意を寄せていた人間を探すことになった榊森羅。当時店に通っていた人物から話を聞くうちに、涼が大切にしていたオルゴールがあったことを突き止める。

 恐怖は形がないものほど扱いづらい。どうやって対処したら良いか分からないからだ。これを排除すれば怖くない、という具体的なものがあればそれを排除すれば恐怖から逃れられるのに、それがない場合は、ただおびえ続けるしかない。
 そんな状況には耐えられないと、気が短い人は一切合財を無にすることで、恐怖ごとまとめて排除するという選択肢を選んでしまうこともあるかもしれない。そうさせないためには、キミが怖がっているのはこれだよ、と明確に示してくれる森羅の様な人物がいればよいのかもしれないが…。


「夜にダンス」
 森羅の通う明友高校三年の市井流河は、夜にオフィスビルのガラス壁を鏡としてダンスの練習をしたところ、窃盗犯が逃げていくのを見た。しかし警察が調べたところ、そのビルの警備員の証言と防犯カメラの映像は、彼女の証言と矛盾する。
 進学を控えた大切な時期。彼女の周囲の人間、教師や母親は、彼女に証言を翻すように説得するのだが、そんなとき彼女の心を捉えたのは、空を飛ぶトンボに対して森羅が言った一言だった。

 やったことに対する後悔は自分に帰着するけれど、やらなかったことに対する後悔は他人に転嫁しがちだ。それは周囲の人間が、周囲と同じであるように彼ら彼女らに求めるからだろう。しかしそんな言葉は、周囲と同じではあれないと思い、そのために努力する人間にとっては、やらないものの妄言にしか感じられないはずだ。
 本当に相手のことを思うならば、そんなときにとる行動は、そっと背中を押す言葉を告げることと、夢破れたときに帰る場所を残してあげることなのかもしれない。


「大統領逮捕事件」
 東欧のバルキア共和国で三万人以上を虐殺した大統領スワミ・ガレスが、政変により脱出したベルギーで逮捕された。ベルギー政府は内国法によりスワミを裁こうとするが、バルキア暫定政府の大統領マントリーは、ベルギー政府に対し、スワミの引き渡しとバルキア国内でのスワミの裁判の実施を要求する。そしてこの争いは、国際司法裁判所に付託された。
 ベルギー政府の補佐として呼ばれた榊森羅と彼について来た七瀬立樹は、引き渡しを求めるバルキア側の補佐人が燈馬想と水原可奈であることを知る。あまりの強敵に森羅は頭を抱えるのだが、法廷での想の弁論のあり方から、彼が何かを求めていることを悟るのだった。

 権力者が権力者たる源泉はどこかにあり、それを許容する勢力もあるということは認識しておくべきだろう。それが別の権力の逆鱗に触れたとき、問題として表面化するのだ。

Q.E.D.-証明終了- (41)

主観で見る世界、客観的な現実
評価:☆☆☆☆☆
 「C.M.B.森羅博物館の事件目録 (19)」と連携したエピソードを扱っている「バルキアの特使」と、水原可奈の知らない燈馬想の努力を描いた「カフの追憶」を収録している。


「バルキアの特使」
 東欧の小国バルキア共和国で政変がおこり、大量虐殺者だった大統領スオミは国外に逃亡した。そんなとき、バルキア共和国新政府の中枢に入った燈馬想の大学時代の友人アル・ウオッシュから、彼の許に依頼が届く。
 バルキア新政府としては、スワミ元大統領を自国の裁判で裁くことにより、旧時代との決別とし、かつ、他国からの信頼を取り戻すきっかけとしたい。しかし、彼を逮捕したベルギー政府はバルキア新政府を信用せず、スワミ・ガレスをベルギーで裁くと主張する。

 この案件は国際司法裁判所に付託され、争議解決が図られることとなった。バルキア新政府の補佐人は、燈馬想。一方、スワミを逮捕したベルギー政府の補佐人となったのは、従弟の榊森羅だった。
 国家間で対立する主張は、危うくもその補佐人同士の対立にまで落ち込んで来そうになるのだが、それをサポートするのは、水原可奈と七瀬立樹という、“腕”の立つヒロインたち。そして対立する主張の落とし所は…?


「カフの追憶」
 近づく年の瀬。また今年も、燈馬想は水原可奈の家の大掃除を手伝わなければならないらしい。ただ今年は、何でも好きな料理をごちそうしてくれるということ。そうは言いつつ、鍋料理に誘導しようとする可奈を制し、燈馬は手作り餃子を所望する。
 可奈と別れた直後、燈馬のもとにかかって来た電話に導かれ、一路、アメリカへ。可奈の手作り餃子まであと20時間!それまでの間に、ハイスクールの友人リン・ダービーの依頼を解決し、日本へ帰らなければならないのだが…。

 自分に都合の良いようにしか現実を認識できない人は、本当に存在している。ここで描かれる人物像は、誇張はあるが嘘ではないと、ボクは知ってしまったのだ。実際、そういう人に出会ったから…。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (18)

本当に大切なもの
評価:☆☆☆☆☆
 榊森羅の方も、何の心境の変化があったのか、場の空気を読んだ発言をします。

「龍鳳」
 香港の裏社会の一大勢力である北興会のボスが殺された。死に際に残したメッセージで南興会のボスの双子に容疑がかかるが、彼らは二卵生で、メッセージと微妙にずれている。仕事を依頼されて来ていた榊森羅と七瀬立樹は、当の双子から頼まれ、事件の打開に協力することになる。

 ダイイングメッセージの特徴は、死に際ゆえに正しく情報を伝えられないこと。そして聞いた側はその一部の情報のみで判断せざるを得ないこと。その情報の非対称性が、今回の事件を混沌の渦に落としこんでいく。
 しかしその解決が非常にすっきりと、殺人事件なのに妙に後味が良いもの。その秘密は、榊森羅があえて語らなかった大どんでん返しの真相にあります。

「A列車で行こう」
 転校生・堺修二が感じる違和感。それにはクラスメイトの田岸保が関わっているようだ。森羅のアドバイスに従って違和感の正体を探っていった堺がたどり着く真相とは?
 学園編の中でも少し趣が違う作品かもしれません。

「ガラスの博物館」
 素人の趣味で始めた博物館に招待された森羅たち。歴史的価値もないのに見た目だけで展示される品や、本当は貴重なのにみすぼらしいから端っこに追いやられている品まで、森羅の心証を悪くしかねない展示品ばかり。
 そんなとき、展示品の目玉であるティファニーのガラス細工が割れるという事件が発生。果たして犯人は?

 博物館の感想を聞かれて「いいんじゃないですか?(好きにすれば)」と、場の空気を壊さずに、しかし冷たく突き放す森羅の台詞が印象的。コレクションにはその人のセンスが如実に出てしまうみたいです。

 いずれの短編にも、見かけの大切なものと本当に大切なもののふたつが登場している気がする。

Q.E.D.-証明終了- (40)

燈馬想の新たな魅力
評価:☆☆☆☆☆
 今までとは一味もふた味も違う燈馬想の姿が見られる。

「四角関係」
 人もあろうに燈馬想に恋愛相談をした冴えない大学院生・池沢靖。片思いの相手は女子アナ志望の竹内未来だ。たまたま彼女の通っているテニスクラブが水原可奈と一緒だったために、何とか事態は進展するのだが、またまた問題が発生。
 竹内の片思いの相手が草凪慎一というイケメン書店員で、草凪の片思いの相手がバイト仲間の鮎川久美、そして鮎川の片思いの相手が池沢と、きれいな四角関係の輪になってしまったのだ。彼らの関係を上手く行かせるために関わっているうちに、書店で売上金の盗難が発生。容疑者はこの四人だ。事件の影にある動機とは?

 池沢のダメっぷりにこっそりツッコミを入れる燈馬想の姿が珍しい。いつもはどちらかというと空気が読めない側なのに、空気が読めない人間にツッコミが入れられるまでになるとは…。
 彼にも人間関係的な客観性があるという証拠だろうか?

「密室 No.4」
 棺桶島と名付けた孤島の城館で企画されたミステリーツアーのテスターとして参加することになった、咲坂高校探偵同好会のエラリー・クイーンこと江成姫子、そして燈馬想と水原可奈。燈馬がいる時点でゲームとして成立しないのは見え見えなのだが、3つの密室を解き明かした後、第4の密室が現れる。そう、本当の殺人事件が起こったのだ。

 ハウダニットと問う3つの問題を伏線として、フーダニットを問う殺人事件へとつなげていく構成が面白い。匂いという、本では伝わらない要素を上手く読者に開示しているところも好印象だ。
 そして何より、推理小説家の宵宮袖八に対して冷たく突き放す燈馬想の台詞が良い。自分がすべきことなのに、それを他人のせいにして批判するだけで満足する輩が世の中には多過ぎる。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (17)

小さな冴が光るインターバル
評価:☆☆☆☆★
「プリニウスの博物誌」
 ベルリンの壁崩壊直前、東から西へと脱出する親子の間に起きた悲劇を描く。なぜ子どもは脱出直前のトラックから逃げ出したのか、裏切りはあったのか?でたらめな証言をより分けた先に見えてくる、意外な信実のもつ力とは?

「隠れ里」
 春の七草を摘みに里山へ出かけたいつものメンバーたち。しかし彼らが迷い込んだ山は、人を迷わし留める隠れ里だった?そのトリックを榊森羅が解き明かす!

「モザイク」
 消えてしまった有能なひとりの建築家。その後輩は、彼が別の建築家により殺され、その家の壁に塗り込められたという。しかし、証拠もなく個人の家を壊すことはできない。果たして森羅は、その証拠を見つけ出すことが出来るのか?

「幻の車」
 幻の車「つくば号」。新たに発見された車には、ハンドルがなかった。そのハンドルを見つけるために奔走する森羅。その果てに見える、親子の確執と愛とは?

 一話完結ものばかりが収められている巻。ある意味でインターバル回みたいなものかもしれないが、それぞれの回に小さな冴が光る。プリニウスの博物誌では、途切れ途切れに聞こえたセリフのミッシングリンクをうめ、繋ぐことによって、やさしい嘘が現れてくるし、幻の車では、車の機構が真実を反転させる鍵となる。
 予告によると、次はなにやら大きな事件が起こりそう。

Q.E.D.-証明終了- (39)

知るより知らない方が良い?
評価:☆☆☆☆★
「ああばんひるず6号室事件」
 名前だけ豪華なおんぼろアパートで起きた、大家さんの自殺事件。住人たちは誰もが何か秘密を抱えているようで疑わしい。友人の依頼で事件を調べることになった水原可奈と、その手伝いをさせられる燈馬想は、一つ一つ状況を整理し、真実を浮き彫りにさせていく。

「グランドツアー」
 探査船ボイジャーの通信機器を担当した技術者たちが、35年ぶりにハワイ島で再会する。しかしその会合をセッティングした、燈馬想の恩師でもあるイオ教授は、みんなを置いて消えてしまう。その謎と、残された彼らの背景に浮かぶ、亡くなったイオ教授の妻ルナに隠された秘密とは?

 ミステリー作品ではあるが、どちらの回も、実は殺人は起きていない。何回か書いたかもしれないけれど、殺人なくしてミステリーを表現するという、一つの試みかも知れない。
 とはいえ、「ああばんひるず6号室事件」は明確な事件ではある。残された証拠と、次々に得られる証言から犯人を浮き彫りにしていくところは正統派といえよう。
 「グランドツアー」は、過去の出来事を動機として現在の事件が起きる。しかし残された人々は誰も過去の出来事を認識していないので、今起きている出来事が何に起因しているか分からない。それをわずかな事物から推理し、事件の発生を食い止めるのが燈馬想だ。

 グランドツアーとは、175年に1回起きる惑星直列を利用した、宇宙航法のこと。占星術では何らかの象徴として扱われたりもするらしい。めったに起きないことは吉兆よりも凶兆と考えられやすいようだ。
 しかし逆に、タイミングを捉えさえすれば、普段は起こりえないことでも起きてしまうということでもある。人間関係にも似たところはあるだろう。
 イオ教授は、天体のチャンスを掴むために、人間関係のチャンスを逸してしまった。気づかなければ幸せに暮らせたかもしれないのに、小さな違和感に気づいてしまったために全ては崩壊した。多くを見通す怜悧な知性を持つというのは、幸せなことばかりではないらしい。

C.M.B -森羅博物館の事件目録- (16)

一言をきっかけとして歴史が引き起こす事件
評価:☆☆☆☆☆
 ナスカの地上絵の一部を崩して、観光のために道路を建設しようという計画が持ち上がる。それに反対するスペイン人学者のサイードは、指輪の主として榊森羅をペルーに呼ぶ。しかし実際に会ったのはサイード博士の死体だった。
 高いところはどこにもないナスカの地上絵付近での、謎の転落死。地元の人間は彼の死を喜んでいるようにも見えるのだが、森羅が解き明かす脅威の部屋にある真実とは?

 インドネシアのバリ島に伝わるレヤックが引き起こした殺人事件や、学校の七不思議にまつわるちょっとした事件、盗品ブローカーのマウがはめられそうになる「クファンジャル」が収録されている。
 ナスカの地上絵の事件のトリックはかなり壮大なものなのだけれど、事件が夜に起こったことを考えると、かなり無理がある気もする。しかし、この短編のキモはトリックにあるわけではない。その終わり方にある。以前もこんな終わり方をした話があったので、作者が描きたいテーマなのかも知れない。

 本編から少し離れるが、マリア・ライヘは自分の生活を犠牲にしてナスカの地上絵を守ろうとしたから本当に尊敬されているのだと思う。もっとも、そんなことができる人は居ないから尊敬されるのだろうけれど。

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Q.E.D.-証明終了- (38)

他者への理解の求め方、その違い
評価:☆☆☆☆☆
 映画をつくることに人生をかけ、その結果として不幸な事件が引き起こされてしまった「虚無」。神社を舞台にしたドラマが大ヒットしたことで、三百年前の偉大な和算少女が残した遺題が失われそうになる「十七」を収録している。

 「虚無」には、売れない映画監督に入れ込んで財産を注ぎ込み、実家から絶縁されてしまった若者が登場する。人生を駄目にされたというならまさにこの人物のような気がするのだが、決して彼は後悔していない。その舟が泥舟だと知りつつ、その上でお金を出していたのだ。
 彼がそこに見ていた価値は、最後のセリフに現れている。

 そして「十七」は、江戸時代に微分法や積分法、そして虚数の存在を直観的に理解していた、時代にそぐわない才能を持っていた少女・秋沙が登場する。
 なんとなく、天地明察に影響されたのかも知れないと思わなくもないが、作者はずっと以前から数学や物理をネタにしてきたので、とってつけたものとは言われないだろう。

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C.M.B -森羅博物館の事件目録- (15)

自分が許すギリギリの範囲で
評価:☆☆☆☆☆
 動くミノタウロス像の謎を解く「アリアドネの糸」、クラスメイトと出かけた釣り先で遭遇する事件を描く「魚釣り」、榊森羅の養父の一人スタン博士が登場する「スタン」、大富豪が過去に友人から贈られたキルトに込められた謎を解く「キルト」を収録している。

 風刺的なもの、社会問題的なもの、森羅の過去に関わるもの、森羅の成長に関わるものという感じで、それぞれ面白さがあるのだけれど、個人的には最後の一本が好き。自分の信念を曲げることはできないけれど、可能な範囲で人に優しくありたい。そんなギリギリの葛藤が見えて面白かったと思う。

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Q.E.D.-証明終了- (37)

積み重ねてきた末の崩壊
評価:☆☆☆☆★
 警察のプロファイリング研修所で起きた殺人事件の真相を描く「殺人講義」、アニメの制作現場で起きたトラブルの真相を描く「アニマ」を収録している。どちらの作品にも、過去からの積み重ねとその崩壊というテーマがある印象を受けた。

 殺人講義で語られるプロファイリングの本質とは確率論。この様な経歴を持つ人物はこういうことをやり易い、こういう場所ではこういう事件が起きやすいというデータの積み重ねを利用して、直観によらない参考情報を提供してくれる。そして、この事件が起きた背景にも、過去にこういう事件があったからそれで変わった、という部分が大きく影響を与えている気がする。
 アニマは、アニメの制作現場の厳しさを紹介しつつ、それでもめげずに突き進み続けるものと、力尽きてしまうものの姿が描かれる。ラストシーンは、たとえアニメ以外の他の分野ででも、同じ様な経験をした人間には、身につまされる部分があるのではないだろうか。

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C.M.B -森羅博物館の事件目録- (14)

権力が作る正義の姿
評価:☆☆☆☆☆
 幻の蝶と20世紀のアルゼンチンの闇をつなぐ「ワールド・エンド」、日常の行き違いの原因を探る「すごろく」、司法浪人生が覗く愛憎劇「花屋の娘」を収録。2本目、3本目はどちらかというとQ.E.D.で扱いそうなテーマという気もするので、1本目が個人的には好き。

 世界に八頭しかない幻の蝶"ポンテンモンキチョウ"の9頭目の写真を辿り訪れたアルゼンチンで、森羅たちは1976年の汚い戦争で行われた軍事政権による民衆弾圧の後遺症に巻き込まれていく。
 法は権力を縛るのが理想だと思うけれど、権力による暴力を正当化することだってできる。そしてそういう時代が生み出す異常な状況は、普通の人を怪物にしてしまう。
 エンディングにあるのは勧善懲悪ではなく、権力が作る正義の姿。

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Q.E.D.-証明終了- (36)

遺したいという想い
評価:☆☆☆☆★
 自殺に見せかけて殺された理論物理学者と容疑者として疑われる若手研究者を描く「黒金亭殺人事件」、大富豪の後継者選定を任された燈馬と後継候補四兄妹の行動を語る「Q&A」を収録。

 前者はアカハラ的な話題をベースにしているのだが、類似したような話は多分ある気がする。素粒子分野だと論文の名前はアルファベット順になっていることが多いと思うけれど。
 後者は構成に凝った作品。一編の詩の論理構造に沿って物語全体が構成されていて、そこを楽しむ感じ。
 どちらにも共通するのは、自分の後に何かを遺したいという想いだろうか。

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C.M.B -森羅博物館の事件目録- (13)

比べることなく、ただ収集・展示する
評価:☆☆☆☆☆
 雑草だらけの空き地と、その借地権を残して世を去った父の声に耳を傾けようとする娘に対して、残された想いを汲み取ろうとする榊森羅の姿を描く『夏草』や、マオが持ち込んだディスクオルゴールに関する謎に挑む『オルゴール』など、4編を収録している。

 今回は、人生の終わらせ方や人としての生き方について言及している作品が多い気がする。他人から見れば、変だったり損だと思われる生き方であったとしても、人には人の生き方があり、それを選択する必然性がある。それを優劣をつけることなく、ただ収集して展示するのが、森羅博物館の仕事なのだ。

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Q.E.D.-証明終了- (35)

作られたシナリオが真実とは限らない
評価:☆☆☆☆★
 運送会社で起こった窃盗事件と、その事件解決を任された新米刑事の迷走を描く『二人の容疑者』と、演劇部のクリスマス公演にからむゴタゴタを描く『クリスマス・プレゼント』を収録している。

 1本目では、思い込みと真実の違いをあらためて強調しているのだけれど、言いたいことは正しいと理解しつつも、どこか説教臭さがあって鼻につく感じがしなくもない。
 2本目は、演劇部部長として新たに強力な空回りキャラクターが登場する。このお話の場合は、トリックなどが重要ではなくて、自ら人に交わろうとする燈馬想、というシーンを描くことが重要だったのではないかと思える。

 でも、数学や物理的な要素は基本的にない。

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C.M.B -森羅博物館の事件目録- (12)

ミステリーもだけれど、考古学も忘れないで
評価:☆☆☆☆★
 森羅の養父の一人レイが登場。この回は、古代バビロニアのつぼが登場するので考古学の話なのだが、他の回はあまりそういう要素がなくて少し残念な気がする。話の内容的にも、別シリーズのQ.E.D.とかぶり気味な要素が散見される。同時連載ということを考えれば仕方がないのかも知れないが、せっかくの違う魅力ポイントを強調する方向で展開して欲しいと思った。
 雑多なものが置かれている森羅の博物館で、今後ヒヒ丸がどんなトラブルを巻き起こすのかは気になる。

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Q.E.D.-証明終了- (34)

それぞれに合ったやり方で
評価:☆☆☆☆★
 1本目は世界一の富豪アランとその婚約者エリーが設立した慈善事業財団が支援する地域で起きた、国際開発支援を巡るトラブルの話。同じ失敗を二度と繰り返さないコツは、なぜ失敗したのかを客観的に分析し、その原因をひとつひとつつぶすことなのだけれど、言い訳をしてそのあたりをあいまいなままにしておくと、悲惨な事態を引き起こしてしまう。データは重要だけれど、持っているだけでは宝の持ち腐れにしかならないということだろう。
 2本目は可奈の友人の周辺で起きた、お金にまつわる殺人事件の話。これには事件を表す構造と類似したものとして母成堂という民話が出てきて、最後の解決をきれいに閉じさせる構成になっているのだけれど、もう少しそこをねっとりと描き込んでも面白かったんじゃないかなと思った。このあっさりしたスマートな描き方が作者の持ち味なのかも知れないが。

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C.M.B -森羅博物館の事件目録- (11)

見せびらかしたい気持ちも分からなくはない
評価:☆☆☆☆☆
 ケンカや何かの事件だと、当事者双方の言い分を聞くという事が出来ますが、殺人事件は一方の当事者が永遠に無言になってしまうので、そういうことができません。そこで、解を仮定してそこに証拠をあてはめて行く事で、正しいかどうかを検証するわけです。1つ目の事件はそんなお話。
 2つ目、3つ目の事件は、博物館とコレクターの違いをあらわしたもの、とでも言えば良いのでしょうか。どちらもモノを集めて見せびらかすのが商売ですが、それが褒められる行為か疎まれる行為かにキレイに分かれるのはちょっと面白いですね。

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Q.E.D. -証明終了- (33)

こう思われているはずの自分とこう思われたい自分
評価:☆☆☆☆★
 自分自身は他人の目を通して初めて社会的に認識される。だから、自分はダメなやつだと思っていても他人が褒めてくれることもあるし、その逆もある。やさしい人、怖い人、お洒落な人、一度ついてしまったイメージはなかなか崩せないので、全ての行動はそういう色眼鏡を通じて解釈されることになる。
 でも、そういうイメージに本人が満足しているかは本人以外には分からない。そういうギャップはギャップとして、他人の見方を気にせずに生きていければ何も問題はないのだが、それを覆そうとして無理をすると、もしかすると事件になっちゃったりもするのかも知れない。

 立ち退きの強制代執行が行われているアパートの一室でミイラ化して発見された死体。その現場に立ち会った燈馬と水原は、事件の真相を知るため、被害者の関係者三人に話を聞く。だが、彼らの語る人物像は互いに矛盾しており…この矛盾と事件に関連性はあるのか。
 自らが考えたトリックで推理小説家が殺された。このトリックを知っていたのは、いずれも推理小説家の三人。そんな疑われやすい状況の中で、いったい誰が何のために事件を起こしたのか。
 以上が今回の事件のあらましです。

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Q.E.D.-証明終了- (32)

シンプルな原理とそれを見えにくくしてしまっているもの
評価:☆☆☆☆☆
 燈馬を驚かせられるかを賭けてマジシャンが勝負を挑む「マジック&マジック」、金融危機の責任と人の欲望を描く「レッド・ファイル」の2編を収録。
 ミステリーとマジックは、どちらもトリックがありエンターテインメントでもあるという共通点を持ちながら、トリックの開示という点においては方向性が異なる。ミステリーはトリックを明らかにする過程を楽しむのだが、マジックはトリックを見破れないことによる驚きを楽しむのだ。これを念頭に置くと、「マジック&マジック」はマジックをミステリーに同一化させた作品と言えるかもしれない。
 「レッド・ファイル」は、まさに話題の金融危機を題材にしたもの。登場人物たちはハイリターンに目がくらみ、リスクの存在を忘れて行動し、最後は落とし穴にはまってしまう。可奈の決め台詞で締めているところがとてもかっこ良い。

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C.M.B.森羅博物館の事件目録 (10)

誰のために、何のために
評価:☆☆☆☆★
 恐竜と人間が同じ地層から発見された謎を解く「その差6千万年」、神社の杉の木に打ちつけられていた藁人形にまつわる事件に関わる「釘」、夏休み最後の1日に起きた不思議を語る「地球最後の夏休み」、呪いのオルガンに秘められた歴史を明かす「ヒドラウリス」の4編を収録。
 モノ自体の存在に全く罪はないのだけれど、それをどう使うか、どう解釈するかで、人間は幸福にもなれるし、不幸にもなれる。どちらでも可能ならば、なるべく幸せに感じていたい、というお話。

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C.M.B.森羅博物館の事件目録 (9)

価値とは
評価:☆☆☆☆★
 「太陽とフォークロア」「メタモルフォーゼ」「死滅回遊」の三編収録。この三編の共通点を無理矢理見つけるとすると、価値観の違い、だろう。たとえ同じものを見て、同じ空気を吸って、同じ音を聞いて生きている人達がいたとしても、感じることはそれぞれ違う。そして、人の持っているものをうらやましく思ってしまう。
 この三編で描かれる犯人達は、他の人から見ればうらやましく思われるものを持っている。でも、その価値には気づかない。気づいたとしても、他にもっと高い価値を見出してしまう。それは仕方のないことかもしれない。でも、何か悲しく思える。

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Q.E.D.-証明終了- (31)

自分を縛るもの
評価:☆☆☆☆★
 「眼の中の悪魔」では、科学者を縛るものが描かれている。自分の好きなことを気ままにやっているように見えるかもしれないが、科学者も人間である以上、生活をするためにはお金を稼ぐ必要があるし、そのためにはお金を持っている人に価値を認めさせる必要があるわけで…。お金をとって来やすい研究と自分がやりたい研究は異なりがちなので、そういったところで歪みは発生しやすい。何のために自分は研究しているのか、という当初の目的を見失うと、変な方向に暴走することもあるかもしれない。
 「約束」では、殺人者が縛られている約束が描かれている。約束は大切だけど、生きている人間より優先されるということはないだろう。あまりまじめに考えすぎるのも危険だということで。

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Q.E.D.-証明終了- (26)

思い出
評価:☆☆☆☆★
 収録の2話とも、思い出の品にまつわるお話。他の人にとっては大して意味を持たないもの。しかし、特定の人にとっては何物にも代えがたいもの。1つのものにだって、人はそれぞれ違う意味を見出す。
 自らの正しさに従って引き起こされた結果が、他の人にとっても正しいものとは限らない。そして、その混乱を解きほぐしてくれる人は、普通はいないのだ。

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C.M.B.森羅博物館の事件目録 (4)

真実がもたらすもの
評価:☆☆☆☆☆
 古代ローマの遺跡、フォロ・ロマーノで殺された遺跡調査員は、ユダヤの財宝を見つけた、という言葉を残した。その言葉に導かれて集まったのが…
 イスラエルとマルタ騎士団。かつて領地を持たなかった国と、今なお領地を持たない国。古代ローマにまでさかのぼるユダヤ教とカトリックの対立が現代に悲劇をもたらす。この作品の中には、複数の対比軸が出てきます。
 扱うのが危ういようなテーマを作品として完成させたのは見事だと思うけれど、軽々に扱いすぎのような気もします。信仰している人々に感想を聞いてみたいところですが…
 ちなみに、マルタ騎士団の拠点は、ヴァチカンではなく、ローマにあるらしいです。

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Q.E.D.―証明終了 (25)

名前を変えるとお金が取れます
評価:☆☆☆☆★
 如何に研究費を獲得するかというのは研究者にとって見れば正に死活問題。お金の集まるところには人が集まり、人が集まればもしかして不正も…。今回の事件はそんなところで発生します。過去の不正にからむ謎を解き明かすことができるのか。
 この作品は数学的なネタをかなり取り入れていますが、今回のネタは高エネルギー物理学(ついでに素粒子物理学)。超ひも理論の話が盛り込まれています。このネタ、個人的には取り入れられているのは嬉しいけれど、作品的には意味があったのかな?とちょっと疑問に思う。だって、事件に直接関わっていませんよね。一応最後の謎解きで思い出したように付け加えられているけれど、それもどちらかというと超対称性の部分がメインな気がする。
 でも、数学とか物理とか、不正研究費の問題とか、あまりスポットが当てられない部分にスポットを当てようという試みは非常に面白い。これからもお願いします。

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C.M.B.森羅博物館の事件目録 (3)

同じトリックでも物語は変えられる
評価:☆☆☆☆★
 3つの指輪の秘密が明かされる。ある意味巨大な力を使わず、ただ一人、小さな博物館を開き続ける榊森羅。この世の全てにその興味を向けながらも、博物学を通じてしか人と関わることは無い様に見える。
 あまりにも巨大な才能が、いわゆる普通の生活というものに入り込むためには、何かチャネルが必要なのかもしれない。知らず知らずのうちに、その役割を果たしている七瀬立樹。
 この作品が好きなのは、ミステリなのに殺人を出さなくても物語を成立させるところ。この世の中には不思議なことがいっぱい出し、それは意外なところにも転がっていると思うから。

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C.M.B.森羅博物館の事件目録 (2)

生も死も全てを飲み込む
評価:☆☆☆☆☆
 「青いビル」「呪いの面」各前後編収録。

「青いビル」:
 立樹と同じ高校に入学した森羅は鯨崎警部と知り合い、傷害事件の解決を手伝うことになる。目撃者の言う、青いビルとは…
「呪いの面」:
 人を呪い殺す能面に関わることになった森羅。本当に呪いは存在するのか?

 博物館の館長でもある森羅は、その収集意欲の赴くままに、事件に関わったものも集めようとします。無邪気なのに時に残酷にも見え、そして真実をつく。最後のセリフを読んで、大英博物館は略奪博物館だ、という見解を思い出しました。

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Q.E.D.―証明終了― (24)

喜びと怒り
評価:☆☆☆☆★
 「クリスマスイブイブ」「罪と罰」収録。

「クリスマスイブイブ」:
 栗ようかんパーティのプレゼントを買うお金を作るためにカラオケ店でバイトをすることになった想。小さなお店でも人が集まれば問題も起きる。重なり合ったトラブルを解きほぐすことはできるのか?

 想の表情がとても明るい。無表情で感情をそっと表すことが多い想にとっては珍しい気がします。とても幸せそうです。
「罪と罰」:
 お金に困った大学院生が出来心から起こした空き巣先で殺人事件に巻き込まれる。担当は水原警部。疑われる大学院生はどうなる?

 お金に困る大学院生ということで、身につまされるような気分で読みました。でも、推理ものは感情移入しないほうがよいですね。

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